■剣に憑りつかれ、はぐれ外道となった男の末路…腑破十臓
『侍戦隊シンケンジャー』(2009年)は、シンケンレッド(志葉丈瑠)役を務めた松坂桃李氏の俳優デビュー作でもある。そんな本作で異彩を放った悪役が、外道衆の幹部でありながら、世界の破滅にも仲間の利害にも一切の興味を持たなかった腑破十臓(ふわじゅうぞう/演・唐橋充氏)だ。
人間態の十臓は、ボサボサ頭にヒゲを生やした壮年の男性で、ボロボロの衣装をまとっていた。一方、怪人態では白い骨のようなプロテクターを身に着け、赤いドクロのような顔面をした禍々しい姿となる。
ひたすら己の剣技を極め、命がけの真剣勝負のみに喜びを見いだす彼が求めたのは、シンケンレッドという“宿敵”との一騎打ちのみ。その執念深さは、人間だった頃に不治の病を患ったことで人斬りに身を墜とし、妻の制止も振り切って人を斬り続けて「はぐれ外道」となった顛末からもうかがえる。
赤いノコギリのような禍々しい愛刀「裏正」を携えるが、実はこの裏正は彼の妻の魂から作られた刀という業まで背負っていたことが判明する。
そんな彼にとっての“救い”とは、己を満足させてくれる極限の戦いだけだった。「存在するのは、ただ剣のみ。するべきことは、ただ戦いのみ!」という彼のセリフが、それを象徴していた。
十臓の最期を描いた第四十七幕「絆」では、仲間を信じることで救われた丈瑠に対し、裏正(妻)に裏切られる十臓の姿が対照的に描かれた。
肉体が限界を迎えながらも、丈瑠と剣を交え続ける十臓。しかし、その壮絶な剣戟の中で、裏正は彼の左足に突き刺さったまま抜けなくなる。十臓を打ち滅ぼすきっかけとなったのが、彼自身が唯一信じる裏正だったのは皮肉な話だ。
己の渇望に忠実であり続け、燃えさかる炎のなかで四散し、絶叫しながら散った腑破十臓。絶望した人間が生んだはぐれ外道の背景には、恐ろしくも悲しいドラマがあったのである。
■「千の頭脳」を求める傲慢な天才…大教授ビアス
レジェンド声優の中田譲治氏は、かつて特撮作品などの俳優として活躍していたことでも有名だ。その中田氏が『超獣戦隊ライブマン』(1988年)で演じた悪役幹部が、敵組織の首領・大教授ビアスである。
ビアスは自他ともに認める天才であり、優秀な頭脳を持つ者が人類を支配すべきだという考えによって行動。自ら興した「武装頭脳軍ボルト」の頂点に君臨すると、若き天才たちを洗脳していく。
そして究極の知能「千点頭脳」を作り献上させると、ビアスは自らを若返らせるために利用した。
他者を冷酷に利用し尽くす圧倒的なエゴイズムと、常に優雅さを失わない独裁者としてカリスマ性を持つビアス。気品あふれるイケメンだったが、彼の自信に満ちた言動の裏側にあったのは、老いへの恐怖と孤独であった。
第48話では、一時的に地球征服に成功するが、ライブマンのレッドファルコンにより制御装置が破壊されて計画は頓挫した。しかし、自分に心酔するケンプの脳からエネルギーを吸収することで若返り、少年王ビアスを名乗ると地上総攻撃を開始する。
そんなビアスの散り様は、美しくも残酷なものだった。最終話である第49話「大教授ビアスの崩壊!!」では、少年となったビアスが全宇宙を支配する知性を得ようとした瞬間、ケンプや千点頭脳(弟子たちの魂)の裏切りによって計画は瓦解。
かろうじて逃げ込んだ基地でも爆発が始まり、急激に老いていったビアスは視覚や聴覚を失ってしまう。どのような状況かと訊ねるビアスに、部下のガッシュは「ビアス様の地球征服をお祝いする花火です」と優しいウソをついた。
自分をたたえる幻の声に包まれながら老いて朽ちていくその様子は、美しき悪のカリスマにとって実に皮肉で、物悲しい末路であった。
ちなみにビアス役を演じた中田譲治氏は、『超新星フラッシュマン』(1986年)でもワイルドな悪役サー・カウラーを演じており、自身のXでもたびたびネタにしている。
今回取り上げた3人の悪役たちの生き様や目指した場所は、まったく異なっている。しかし彼らには、己の美学を貫き通したという共通点があり、それが視聴者に強烈なインパクトをもたらし、記憶に残る存在となったのだろう。
彼らのような魅力的な「闇」の存在がいたからこそ、正義のヒーローたちが放つ「光」がより一層輝いたのかもしれない。


