物語に登場する悪役は、ときに主役以上に魅力的だ。主人公の前に立ちはだかり、恐怖や絶望を与えながらも、なぜか目を離せない……。その存在感ゆえに、作品を見終えたあとも強く記憶に残るのは、むしろ悪役のほうだったという経験を持つ人も少なくないだろう。
なかでも、漫画やアニメを原作とする作品に登場する「美しき悪女」たちは、実写化において特に難易度の高い存在だ。妖艶さと恐ろしさ、支配者の風格と人を惹きつけるカリスマ性。その独特なバランスを、生身の俳優が違和感なく成立させ、なおかつ原作ファンのイメージにも応えなければならないからである。
今回は、実写化作品で「美しすぎる悪女」を見事に演じ切り、その妖しさと説得力で観客を魅了した女優たちを振り返っていく。彼女たちはどのようにしてキャラクターの持つ毒気と色香をまとい、忘れがたい“ハマり役”となったのか。その鮮烈な悪女ぶりを、改めて見ていきたい。
(第5回/全5回)
※本記事には作品の内容を含みます
■慈愛と冷酷さを併せ持つ“ママ”『約束のネバーランド』イザベラ:北川景子
白井カイウさん原作、出水ぽすかさん作画による漫画『約束のネバーランド』は、孤児院「グレイス=フィールドハウス(GFハウス)」で暮らす子どもたちが、自分たちに隠された残酷な真実を知り、脱獄計画に挑むサスペンス作品だ。
緻密な心理戦と衝撃的な展開で人気を博した本作は、2020年に実写映画化。浜辺美波さんが主人公・エマ役、城桧吏さんがレイ役、板垣李光人さんがノーマン役を務めている。
その実写版で、子どもたちを優しく見守るGFハウスの“ママ”でありながら、同時に彼らを支配する飼育監・イザベラという重要な役どころを演じたのが、北川景子さんである。
原作でも屈指の人気を誇る悪役、イザベラ。この難役に挑んだ北川さんは、まずビジュアル面で高い再現度を見せていた。
飼育監の象徴である白黒のメイド服スタイルは原作に忠実で、黒を基調としたロング丈のワンピースに白い立ち襟、フリル付きの白エプロンを合わせた装いは、厳格さと気品を同時に感じさせる。さらに、黒髪を夜会巻き風にまとめたアップヘアも含め、スクリーンに現れた瞬間から「原作のイザベラそのもの」と思わせる完成度だった。
演技で印象的だったのは、その静かな圧だ。感情を荒らげることなく、穏やかな口調と微笑みのまま、じわじわと相手を追い詰めていく。とりわけ、エマとの対峙シーンは象徴的だ。
子どもたちの脱獄計画を見抜きながらも、静かに主導権を握り続ける姿には、暴力的な悪役とは異なる恐ろしさがある。そして必要とあらば、逃亡を防ぐために子どもの足の骨を折ることすら厭わない……。その優しさと残酷さが同居した人物像を、北川さんは見事に演じ切っていた。
しかし当時のインタビューでは、オファーを受けた際に「私には難しいのではないかな」と感じたことを明かし、さらに“漫画原作の実写化の難しさは、どんな俳優も理解している”とも語っている。実写版『美少女戦士セーラームーン』で火野レイ/セーラーマーズ役として女優デビューした北川さんだけに、その難しさは人一倍理解していたはずだ。
それでも、制作側から“原作設定を変えない”と伝えられたことで出演を決意。原作ファンの期待と実写化の重圧を正面から引き受け、イザベラという難役に挑む覚悟を固めたことがうかがえる。
そしてクライマックス、高い塀の上で対峙するのは、外の世界へ希望を見出すエマと過酷な現実を知ったうえで“ママ”として生きる道を受け入れたイザベラ。2人の直接対決は、本作屈指の名場面だ。
それでもエマたちはロープを伝って旅立ち、1人塀の上に立つイザベラは、「いってらっしゃい 願わくばその先に光がありますように」と静かに送り出す。ここで北川さんが見せた穏やかな表情は、支配者でも飼育監でもない、本当に子どもたちを想う“母”の顔そのものだった。


