物語に登場する悪役は、ときに主役以上に魅力的だ。主人公の前に立ちはだかり、恐怖や絶望を与えながらも、なぜか目を離せない……。その存在感ゆえに、作品を見終えたあとも強く記憶に残るのは、むしろ悪役のほうだったという経験を持つ人も少なくないだろう。
なかでも、漫画やアニメを原作とする作品に登場する「美しき悪女」たちは、実写化において特に難易度の高い存在だ。妖艶さと恐ろしさ、支配者の風格と人を惹きつけるカリスマ性。その独特なバランスを、生身の俳優が違和感なく成立させ、なおかつ原作ファンのイメージにも応えなければならないからである。
今回は、実写化作品で「美しすぎる悪女」を見事に演じ切り、その妖しさと説得力で観客を魅了した女優たちを振り返っていく。彼女たちはどのようにしてキャラクターの持つ毒気と色香をまとい、忘れがたい“ハマり役”となったのか。その鮮烈な悪女ぶりを、改めて見ていきたい。
(第2回/全5回)
※本記事には作品の内容を含みます
■気品と毒気を兼ね備えたホムンクルス…『鋼の錬金術師』ラスト:松雪泰子
荒川弘さんによる漫画『鋼の錬金術師』は、「錬金術」が存在する世界を舞台に、失った身体を取り戻すため旅を続ける兄・エドワードと弟・アルフォンスのエルリック兄弟の戦いを描いた世界的大ヒット作だ。重厚な世界観、緻密に張り巡らされた伏線、そして強烈な個性を放つ敵キャラクターたちの存在が、今なお高い人気を誇る理由となっている。
そんな『鋼の錬金術師』の実写映画版(2017年)で、主人公・エドワード(山田涼介さん)らの前に立ちはだかったのが人造人間(ホムンクルス)たち――本郷奏多さん演じるエンヴィー(嫉妬)や、内山信二さん演じるグラトニー(暴食)らを束ね、“ラスボス格”ともいえるラストを演じたのが、松雪泰子さんだ。
ラストは「色欲」の名を冠するホムンクルスだ。その名の通り、松雪さんの演じた実写版ラストは、危険な色香に満ちている。
長い黒髪に、胸元が大胆に開いた黒いドレス。そして胸元に刻まれたホムンクルスの証「ウロボロスの紋章」が、その艶やかさと不穏な魅力をより際立たせている。スクリーンに現れた姿は、まさに原作のラストがそのまま現実に現れたかのような説得力を放っていた。
そうした存在感の裏には、徹底した役作りがあった。松雪さんは原作漫画を読み込み、アニメ版も研究したうえで撮影に臨んだといい、曽利文彦監督によれば、ラスト特有の肉感的なシルエットを再現するために上半身だけに特化した約5kgもの増量にも挑戦。そうしたプロフェッショナルな姿勢が、あの妖艶な実写版ラストを生み出したのだ。
その魅力は、ビジュアルだけにとどまらない。伸ばした指先を刃へと変化させ、獲物を貫くラスト特有の凄惨な戦闘スタイルも強烈だった。
原作でも印象深いマース・ヒューズ襲撃シーンでは、真相に近づきすぎたヒューズ(佐藤隆太さん)の前に現れ、「はじめまして。それとも、さようならのほうがいいかしら」と冷たい微笑みを見せる。
次の瞬間、鋭い一撃で深手を負わせるが、自身も隠しナイフで脳天を貫かれる。しかし、それでも死ぬことなく平然と佇み、余裕を崩さない姿は、ホムンクルスならではの異質な恐ろしさを強く印象づけた。その脅威はクライマックスでも健在で、ラストらしい凄惨な戦闘シーンが繰り広げられる。
美貌と底知れぬ殺意を同居させ、「色欲」のホムンクルスを見事に体現した松雪さん。美しさで目を奪い、恐ろしさで記憶に刻み込む。彼女が演じたラストは、実写版『鋼の錬金術師』を語るうえで欠かせない、強烈な悪役だったと言えるだろう。
■松雪泰子さんが演じた妖艶なホムンクルスをチェック



