「自分ツッコミくま」などで知られるイラストレーターのナガノさんが、2020年にTwitter(現:X)に投稿した連載から生まれた、小さくてかわいい生き物たちの日常を描いた作品『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』、通称『ちいかわ』。
2026年7月24日には初の映画作品となる『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が公開予定で、世間では期待が高まっている。
その原作は2023年3月から11月にかけてXにて投稿された「島編(セイレーン編)」と呼ばれる長編シリーズで、「カンタンな討伐で100倍の報酬」「実質無料の限定グルメ」などの甘い言葉に誘われたちいかわ一行が、謎の島へと向かうストーリーが展開される。
この長編は、かわいらしい絵柄とは裏腹に、今でもファンの間で語り継がれるほどダークで“業が深い”シリーズだ。
基本的に『ちいかわ』は、SNSに投稿された1ページの漫画をつなぎ合わせたものだが、中には「島編」のように、見る者をなんともいえない後味の悪い気分にさせるホラー回もあった。今回は、その中でも、かなり怖かったエピソードを紹介したい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■たびたび起こる心霊現象
まずは、ちいかわたちがガチの心霊写真に心を乱される回から紹介しよう。2026年の年明けすぐに公開された物語で、1月7日の七草の日に、ハチワレが七草粥ならぬ大根とカブの二草粥を振る舞うところから物語が始まる。
その後、以前みんなで撮った写真のお披露目会をすることに。ハチワレはその最中に、ちいかわの背後に謎の影が写った写真を発見するが、楽しい雰囲気を壊してはいけないとその場では言い出さずにいた。
しかし雨の夜、あまりの恐怖を1人では抱えきれなくなったハチワレは、ついにちいかわに心霊写真のことを相談しに行き、結局2人で眠れぬ夜を過ごす。
翌日、目に大きなクマを残した2人の前にうさぎが現れ、謎の影はうさぎのピースがブレて写っていただけと分かる。これで不安は解消されたかに思えたが、よく見ると写真に写ったピースの手は左右が逆であり、ガチの心霊写真だと判明。その後、何のフォローもないまま「キャアー」という叫び声で「心霊写真編」は終了した。
実は『ちいかわ』の世界では、過去にも心霊現象が起きている。たとえば、ネットで怖い話を読んだちいかわとハチワレが、別れた後に急に恐怖の記憶がよみがえり、ちいかわの家で「こわいの忘れパーティー」をする話。このエピソードは、2021年5月に投稿されている。
一通りパーティーを楽しんだ後、家に謎の影が現れ、大きすぎるノックの音などの心霊現象が起こる。それは結局うさぎが訪ねてきただけだったが、安心したのも束の間、突如窓が赤く染まって無数の手形がつき、最後に窓いっぱいの大きな手形がバンッと現れる心霊現象に襲われた。この回もとくにオチはなく、「これって…これって…『心霊現象』!!?」「キャアー」という叫び声で終わっている。
こうした『ちいかわ』の世界でたびたび発生する心霊現象には、どのような意味があるのだろうか。
■捕食に呪い、危険がいっぱい
続いては2020年11月から2021年1月にかけて更新された、有名な純文学をオマージュしたかのような作品「三つ星レストラン編」を紹介する。
三つ星レストランに憧れを募らせるちいかわとハチワレは、労働した後に偶然「三ツ星」と描かれたレストランを見つける。メニューのお手頃価格に釣られた2人が中に入ると、そこには3つの黄色い「星」が壁にはりつけにされていた。
その後、店員によってお風呂に入れられ、保湿といわれて油を塗られ、おまじないといわれて塩胡椒を振られ……ついにはトルティーヤに巻かれてしまう2人。まるで宮沢賢治による『注文の多い料理店』のようだ。
自分たちが食べられそうになっていることに気づいた2人は、なんとかトルティーヤから抜け出し、囚われていた三ツ星も救出して店から抜け出す。
食うか食われるか、気を抜いたら常に危険に迫られるちいかわたち。こうして振り返ると、彼らはあの世界において圧倒的な弱者であり、襲われる側の生物なのだろう。
食べられる以外にもさまざまな罠や危険があり、2020年9月に投稿されたエピソードでは、恐ろしい「呪い」が描かれた。うさぎがリサイクルショップで手に入れたドクロのついた怪しげな魔法の杖を振ると、欲しいものが何でも出てくる。喜んだのも束の間、杖を使用したうさぎとハチワレの姿は徐々に怪物に変貌してしまう。
うさぎの体は赤くなり、ハチワレにはツノのようなものが生えて三つ目が開眼。のんきにも「呪われちゃったのかな?」と言っているうちにも体は巨大化し、足だけが見えるものの、面影も残らない姿になった。
ちいかわだけは杖を使わず無事だったため、魔法の杖を折ることで呪いが解け、2人は元の姿に戻った。怪物化したハチワレがこの時に発した「心がふたつある〜」のセリフは、LINEスタンプにもなっている。
仲間だったものが異形のものに変わってしまう恐怖。しかし、これは『ちいかわ』の世界では珍しくないことのようで、作中では他にも「変貌」が示唆されるシーンが少なからず存在した。
いずれもあまり深く語られず、細かい解説がないからこそ、考察の幅が広がっていろんな解釈が生まれるのも『ちいかわ』の魅力である。あの世界に巣食う本当のホラーとはなんなのか……そこを気にすればするほど、我々の心はちいかわたちのとりこになる。映画にもなる「島編」を見れば、我々の心は『ちいかわ』によって、さらにかき乱されるかもしれない。
◼︎島編はここから読める!『ちいかわ』コミックス第8巻をAmazonでチェック



