甘酸っぱい王道ラブストーリーから心あたたまるヒューマンドラマ、背筋が凍るミステリーやホラー、そして夢と魔法に彩られたファンタジーまで、多彩な名作が次々と生まれた90年代の少女漫画。発売日にはお小遣いを握りしめて書店へ駆け込み、胸を高鳴らせながらページをめくった記憶を持つ人も多いはずだ。
そうして作品の世界に足を踏み入れた読者は、時に笑い、時に涙しながら物語の展開を追っていく。クライマックスへと加速し始めると高揚感も増し、気づけば、主人公たちの人生を追体験するかのように深く没入しているのである。
そして迎える最終回。物語の結末に胸を締めつけられ、終わってしまう寂しさと同時に温かな余韻に包まれる感覚は、言葉に尽くしがたいものがある。そこで90年代の名作少女漫画をピックアップし、5回にわたってそれぞれが迎えた結末をあらためて振り返ってみたい。
(第5回/第5回)
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■少女漫画×本格SFの名作『ぼくの地球を守って』
1986年から1994年まで『花とゆめ』(白泉社)で連載された『ぼくの地球を守って』は、日渡早紀氏による壮大なSFファンタジー。前世の記憶を共有する7人の若者たちの輪廻転生を軸に、孤独、贖罪、そして再生を描き出し、綿密な構成と人の心と愛に迫る深いドラマで当時の読者に強い衝撃を与えた名作だ。
物語の中心にいるのは、高校生の坂口亜梨子、小椋迅八、国生桜、笠間春彦、錦織一成、土橋大介、そして小学生の小林輪。彼らを結びつけたのは「ムーン・ドリーム」と呼ばれる夢だった。
そこに現れるのは、月面基地から地球を観測していた7人の研究員たちの記憶。やがて彼らは、迅八が玉蘭、一成が槐、桜が繻子蘭、大介が柊、春彦が秋海棠、亜梨子が木蓮、そして輪が紫苑という研究員の生まれ変わりであることを知る。
夢によると彼らは異星人で、月基地での任務中に母星が戦争によって消滅。帰る場所を失い、地球へ降りることもかなわず、基地の中で病原菌によって全滅するのだった。
やがて、その前世の記憶は現世にも影響を与え、彼らはかつて抱いていた葛藤や愛憎、嫉妬といった感情に揺れ動かされていく。中でも輪は強い影響を受け、亜梨子への好意を色濃く見せながらも、紫苑の抱える憎悪の感情に次第に飲み込まれていった。
その原因は前世の出来事にあった。当時、研究員たちが次々と命を落とす中、秋海棠は完成したワクチンを紫苑にだけ投与したのである。こうしてただ1人生き残った紫苑は、愛する木蓮や仲間たちの遺体の傍で9年もの歳月を過ごすことになり、孤独の中で精神を病んでいったのだ。
この悲劇は、木蓮への恋に破れた秋海棠が、彼女と結ばれた紫苑への嫉妬で引き起こしたものだった。輪は現世で春彦に贖罪を求め、ここから物語は過去と現在が複雑に絡み合いながら、さらなる深みへと向かっていく。
次第に、戦争孤児として育った紫苑の強い劣等感と孤独も浮かび上がってくる。愛を知らないまま、誰よりも愛を求め続けた紫苑。一方、女神のような存在でありながら寂しさを抱える木蓮は、互いに惹かれ合いながらも、いくつもの運命の歪みによってすれ違い続けてしまう。どこまでも切ない関係性だ。
もう1つ、紫苑の心には戦争によって刻まれた深い傷があった。それゆえに彼は、地球が同じ悲劇を繰り返すことを恐れて、月基地をコントロールして争いをなくそうとする。
その記憶を受け継いだ輪は、基地を遠隔操作するための「キィ・ワード」を集めようとするが、目的は異なっていた。輪は前世と決別し、基地の力が悪用されることを防ぐために爆破しようと考えていたのである。
小学2年生の子どもに、地球の行く末や前世の因果はあまりにも重すぎる。相反する思いの狭間で輪の心は引き裂かれ、紫苑の思念に押し潰されていく。
やがて迎えたクライマックスでは、木蓮の記憶に覚醒した亜梨子は輪を前世の呪縛から解放するため、基地を爆破すべくキィ・ワードを明かす。しかし装置は起動せず、爆破は失敗に終わった。
紫苑はその時、自我を失いながらもかつて基地で作り続けていたものを思い出す。それは、植物を茂らせる力を持つ木蓮の歌を流す、自動立体映像投影装置だった。一定時間ごとに響く歌声が、基地を木々で満たしていたのである。
「やがてオレ自身が死んだ後も木蓮は歌い続ける。花は限りなく咲くだろう。誰も居ない基地に皆の骸を守りオレの白骨さえ苗床に、花は永遠に咲くだろう」。
紫苑の独白とともに明かされる木蓮への永遠の愛。壮大な輪廻の果てに描かれたのは、苦しみ抜いた紫苑の心が解放される瞬間だった。長い孤独を抱えていた紫苑と木蓮は互いの想いに気づき、大気へと溶けていく。そして亜梨子は、前世の苦しみを乗り越えた輪に愛を伝え、現世の2人も想いを結ぶのである。
エピローグでは、皆が前世を完全に切り離さず、それを受け入れた上で今を生きる選択をした様子が描かれている。過去があるからこそ今がある、時を超えても愛は続く……。前世を乗り越えた人々の孤独と再生を描いた本作の最終回は、温かい余韻を残してくれる美しい結末だった。
何度でも読み返したい!漫画『ぼくの地球を守って』をAmazonでチェック



