【90年代少女漫画「まさかの結末」3】家族愛に誰もが涙した最終回、絶望的な状況から迎えたドラマチックなラストは…『赤ちゃんと僕』の画像
羅川真里茂 『赤ちゃんと僕』第1巻(白泉社文庫/白泉社)

 甘酸っぱい王道ラブストーリーから心あたたまるヒューマンドラマ、背筋が凍るミステリーやホラー、そして夢と魔法に彩られたファンタジーまで、多彩な名作が次々と生まれた90年代の少女漫画。発売日にはお小遣いを握りしめて書店へ駆け込み、胸を高鳴らせながらページをめくった記憶を持つ人も多いはずだ。

 そうして作品の世界に足を踏み入れた読者は、時に笑い、時に涙しながら物語の展開を追っていく。クライマックスへと加速し始めると高揚感も増し、気づけば、主人公たちの人生を追体験するかのように深く没入しているのである。

 そして迎える最終回。物語の結末に胸を締めつけられ、終わってしまう寂しさと同時に温かな余韻に包まれる感覚は、言葉に尽くしがたいものがある。そこで90年代の名作少女漫画をピックアップし、5回にわたってそれぞれが迎えた結末をあらためて振り返ってみたい。

 

(第3回/第5回)

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

■2歳児の世話に奮闘する小学生の物語『赤ちゃんと僕』

 1991年から1997年まで『花とゆめ』(白泉社)で連載されていた羅川真里茂氏の『赤ちゃんと僕』。個性豊かな登場人物たちが織りなすハートフルな日常にほっこりする一方、小学生が赤ん坊の世話をするという切実なテーマも内包した作品でもある。

 主人公は、小学5年生の榎木拓也。まじめで優しい優等生だが、その生活は周囲の同級生たちとは少し違う。愛する母を交通事故で亡くし、その悲しみを乗り越えられないまま、父・春美と2歳の弟・実との3人暮らしを送っていた。そのため働く父に代わって、家事や育児も担うことになるのだ。

 学校に通いながら、“魔の2歳児”といわれる弟の面倒をみるのは容易なことではない。ゆえに当初の拓也は精神的な疲労もたまっていた。可愛い盛りの赤ちゃんではあるが、まだ小学生の拓也にとって重荷に感じてしまうのも無理はない。

 しかし、彼の周囲には榎木家を温かく見守ってくれる人々もいる。向かいに住む木村家、同級生の藤井家や後藤家、そして実を可愛がる園長先生やクラスメイト。そんな人々と触れ合いながら実との日々を過ごす中で、拓也は少しずつ成長していく。

 さらに作中では、同級生や大人が主軸となる物語も描かれる。時に泣き、時に笑えるエピソードの数々は、どれもがリアルでドラマ性があった。だが、そんな温かな日常を積み重ねてきた最終回で描かれたのは、あまりにも衝撃的な出来事だった。

 その日の実は、お気に入りのクマの服を捨てられたことで朝から不機嫌。他の服は着ないと駄々をこね、何とか父・春美が別のクマの服を買ってきたものの、女の子の服だと指摘されたことで外出中に癇癪を起こしてしまう。

 実の態度に限界を迎えた拓也は商店街の真ん中で服を脱がせ、「そこにいれば? 実なんか大っ嫌いだからね」と歩き出してしまう。

 だが、拓也には分かっていた。いつも自分が怒ると、実は後ろを追いかけてくることを。この時も、実は上半身裸のまま、涙をためて「にーちゃあ」と小さな足で懸命に追いかけた。だが、そこに1台の車が通りかかる。衝撃音に振り向いた拓也の目に映ったのは、血まみれで倒れた実の姿だった……。

 病院に運び込まれた実は、左手骨折、内臓損傷による大量出血に脳内出血もしていた。5時間半に及ぶ大手術の末、昏睡状態のまま2〜3日が山といわれてしまう。

 拓也は自分の言動を思い返し、精神が壊れる寸前まで自らを責め続ける。駆けつけた春美もまた、両親、妻、妻の両親を交通事故で亡くしたことがフラッシュバックし、自分の運命を呪った。

 実の担当医となった朝日勇貴は、春美の学生時代の友人だった。勇貴は「運命は命を運ぶと書く。医者として抵抗しまくって運命を変えてやる」と春美を励ました。だが、希望を持とうとした矢先に、実の容体が急変し、心肺停止に陥ってしまう。

 絶望の淵に立たされた拓也と春美。その時、それぞれの前に今は亡き由加子や、春美の両親が現れた。由加子は息子の拓也と夫の春美を抱きしめると、暗闇の中で1人泣く実の前に現われ、実の手を取って拓也のいる光の方へと歩き出す。

 実は、その優しい姿に「まーま?」と聞き、母の顔をはっきりと見つめる。そして現実世界では、その瞬間、奇跡的に実が息を吹き返すのである。意識が戻った途端、実は泣きながら「に-ちゃあ…ごめちゃ…」と謝る姿はあまりにも健気で、涙なしでは読めない名シーンだ。

 その後、後遺症もなく回復した実は家族のもとに戻り、拓也は中学に進学。より強くなった家族の絆を胸に、新たな日々を過ごすのだった。

 

 本作は、子どもの頃に読むのと大人になってから読むのでは視点が変わる作品かもしれない。当時、子どもながらに奮闘する拓也の負担の大きさに胸を痛めた読者も多かっただろう。だが、フルタイムで働きながら2人の子を育てる春美の孤独と責任の重さも計り知れない。

 わがままを言って拓也を困らせる実もそうだ。母の記憶を持たない実の寂しさ、そして母代わりである拓也への強い想いを考えると胸が痛む。そのすべてが交差する最終回で描かれた衝撃のドラマは、榎木家の家族愛をより強く印象付けた。

 

何度でも読み返したい!漫画『赤ちゃんと僕』をAmazonでチェック

赤ちゃんと僕 1 (白泉社文庫)
赤ちゃんと僕 1 (白泉社文庫)
  1. 1
  2. 2