甘酸っぱい王道ラブストーリーから心あたたまるヒューマンドラマ、背筋が凍るミステリーやホラー、そして夢と魔法に彩られたファンタジーまで、多彩な名作が次々と生まれた90年代の少女漫画。発売日にはお小遣いを握りしめて書店へ駆け込み、胸を高鳴らせながらページをめくった記憶を持つ人も多いはずだ。
そうして作品の世界に足を踏み入れた読者は、時に笑い、時に涙しながら物語の展開を追っていく。クライマックスへと加速し始めると高揚感も増し、気づけば、主人公たちの人生を追体験するかのように深く没入しているのである。
そして迎える最終回。物語の結末に胸を締めつけられ、終わってしまう寂しさと同時に温かな余韻に包まれる感覚は、言葉に尽くしがたいものがある。そこで90年代の名作少女漫画をピックアップし、5回にわたってそれぞれが迎えた結末をあらためて振り返ってみたい。
(第2回/第5回)
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■四神天地書を巡る壮大なファンタジー『ふしぎ遊戯』
多くの名作ファンタジー作品が生まれた90年代。中でも1992年から1996年まで『少女コミック』で連載された渡瀬悠宇氏の『ふしぎ遊戯』は、古代中国の四神や二十八宿を題材にした壮大な世界観に冒険・恋愛・コメディが融合した濃密なストーリーで、女性だけでなく男性読者の心をもつかんだ傑作である。
物語は、主人公・夕城美朱(ゆうき みあか)が親友の本郷唯とともに古書「四神天地書」に吸い込まれ、朱雀・青龍・白虎・玄武を守護に置く4つの国を有する異世界に迷い込むところから始まる。
美朱は紅南国で「朱雀七星士」の鬼宿(たまほめ)と出会い、同じく七星士であり皇帝の星宿(ほとほり)からは「国が乱れるとき、異世界より朱雀の力を得るため娘が現れ国を導く」という伝説を知らされる。かくして美朱は国の命運を担う「朱雀の巫女」となり、神獣・朱雀を召喚するため残りの七星士探しの旅に出るのだった。
旅の中で、美朱と鬼宿は愛し合うことになるが、一方で事件も起こる。唯が倶東国の青龍七星士・心宿(なかご)にだまされ、美朱を憎んだまま青龍の巫女になり、青龍を召喚してしまうのだ。
最終的に唯は心宿の企みに気づき、朱雀召喚の力を美朱に託すのだが、激闘の中で柳宿(ぬりこ)ら朱雀七星士は1人また1人と散っていく様は胸にくるものがある。推しキャラが散って絶望した記憶を持つ読者も多いのではないだろうか。
戦いが終わった後は、命を落とした鬼宿が美朱の願いで宿南魏(すくなみ たか)として転生し、2人はハッピーエンド……と思われたが、物語は終わらない。なんと今度は、美朱の前に紅南国の守護神・朱雀星君が現われるのだ。
そこで告げられたのは、封じられたはずの魔人・天罡(てんこう)の復活、そして散らばった鬼宿の「記憶の玉」を集めなければ魏が消えてしまうという残酷な事実だった。愛する人を守るために美朱は再び異世界へ向かい、再会した七星士と戦いの中に身を投じていく。
そして、一進一退の攻防を繰り広げて訪れたクライマックス。皆の前に、転生したはずの鬼宿が現われた。その正体は天罡の配下・俑帥(ようすい)なのだが、鬼宿の姿に動揺し自らの無力さに打ちのめされた魏は、美朱のもとを離れてしまう。
それでも美朱が選んだのは、鬼宿ではなく魏だった。この選択こそが、2人の愛を決定的なものにする。
やがて天罡の力は増大し、世界の崩壊が近づく。美朱と魏はすべてを終わらせるために立ち上がり、魏は命を賭けて鬼宿と対峙する。だが敵の力は圧倒的で、能力を持たない魏は手も足も出ず、美朱も囚われてしまった。
そして、ここで屈指の名場面が訪れる。魏が鬼宿の一撃を受けそうになった瞬間、美朱がその身を犠牲にして魏を守るのである。それは、まさに究極の愛の形といえた。
その絶望の淵で、魏がたどり着いた答えは「己を知り、己を信じ、己に打ち勝つこと」。自分の片割れである鬼宿を受け止めることで一体化し、鬼宿の力を取り戻した魏は、瀕死の美朱に口づけて愛を糧に朱雀を召喚。神通力を得た朱雀と四神の力によって天罡は再び封じられ、歪んだ世界に今度こそ平和が訪れたのである。
こうして『ふしぎ遊戯』は、長きにわたる戦いに幕を降ろした。冒険の高揚と胸を締めつける仲間との別れ、そのすべてを乗り越えて、愛を深めていった美朱と鬼宿。その運命的な愛の物語は読む者の心を大きく揺さぶり、今もなお色あせない輝きを放っている。
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