2025年の日本映画界において、最大の話題作となったのが『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』だ。2026年1月5日時点での国内興行収入は389億円を突破し、歴代1位の前作『無限列車編』(407.5億円)を射程圏内にとらえる勢い。その成功は国内にとどまらず、全世界興行収入は1000億円を超え、日本映画として歴代最高記録を更新している。
この数字だけでも十分に驚異的だが、12月にはさらに大きなニュースも飛び込んできた。米アカデミー賞の前哨戦としても知られる第83回ゴールデン・グローブ賞で、本作がアニメ映画賞にノミネートされたのである。
その結果発表は1月11日(現地時間)。受賞できるかはわからないが、この候補入りだけでも「快挙」と呼ぶにふさわしい。なぜなら、『鬼滅の刃』は、一般的に“米国の賞レースで評価されにくい要素”をいくつも抱えているからだ。
まず、日本のアニメーション作品であること。ハリウッドが中心となる米国の映画賞では、国内の話題作が優先される傾向が強い。過去には宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が第81回ゴールデン・グローブ賞アニメーション映画賞を受賞しており、その他にも新海誠監督の『すずめの戸締まり』(第81回)や湯浅政明監督の『犬王』(第80回)といった作品がノミネートされてきた。しかし、外国のアニメーション作品が受賞するには、依然として高いハードルが存在するのが実情である。
次に1本で完結しない“続き物”であること。『無限城編』は三部作で構成され、本作は第1章という位置づけ。当然、物語は途中段階で終わる。ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞では、単体で完結し、社会性や芸術性、あるいはスター性が際立つ作品が評価される傾向にある。
そのため、戦いや友情を描く少年漫画原作の王道エンタメは、不利になる可能性が否めない。また、大正時代を舞台とした設定など、日本文化への理解が求められる点も、国際的な評価の障壁となりうる。こうした要素が積み重なると、通常なら「評価の土俵に上がることすら難しい」──そう見なされても不思議ではない。
それでも『鬼滅』はノミネートまでこぎ着けた。これは単なる人気や商業的成功だけが理由ではないはずだ。圧倒的な興行の強さを背景に世界規模でファンとの接点を広げ、作品の熱量をきちんと届けた結果、審査側にも「無視できない存在」として認識された証拠だろう。ノミネートの段階で、すでに“壁を一枚破った”と言っていい。
さらに近年は、作品が与える文化的インパクトや、アニメーションという表現手法そのものの“革新性”が重視される傾向にある。その点で言えば、『無限城編』は期待に完璧に応える作品である。
複雑な感情描写、戦闘シーンでの大胆なカメラワーク、3Dと2Dを融合させた映像構築、そして海外のファンから「地獄のルービックキューブ」とも評された無限城の圧倒的な空間表現……。こうした要素は海外のファンコミュニティでも、“アニメ表現の新たな基準”として語られるほど高く評価されている。
つまり、『鬼滅』のノミネートは、記録的な興行成績やエンタメとしての完成度の高さに加え、その映像表現が国境を越えて通用する芸術性を備えていると、国際的に認められた結果なのである。
もちろん、現実的に見れば受賞するのは簡単ではなく、下馬評ではディズニーの『ズートピア2』が最有力候補と見られている。しかし、ともすれば「日本のテレビシリーズの延長線」と見られそうな1作が、世界最大級の映画賞の舞台に堂々と名を連ねた事実は、今後の日本アニメにとっても大きな意味を持つだろう。
そして、ゴールデン・グローブ賞の次に控えるのがアカデミー賞だ。こちらもアニメーション部門でのノミネートが期待されており、ゴールデン・グローブ賞の結果次第では、その可能性が高まるかもしれない。
2026年は、興行成績と賞レースの両方で“鬼滅ブランド”がさらに飛躍する年になりそうだ。


