■上官に異例の亡命を提案した忠義者
続いて紹介する副官は、ベルンハルト・フォン・シュナイダーである。銀河帝国軍の老提督ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツの副官を長く務めた人物で、真面目で誠実な人柄は彼が支えるメルカッツの印象とぴったり合っている。
そんなシュナイダーの最大の功績は、やはりメルカッツに自由惑星同盟への亡命を勧めた点だろう。
長く戦争が続いている中、帝国から同盟に亡命した軍人はもちろん存在する。だが、銀河帝国において「上級大将」という高い地位に就いていた人物の亡命となると、極めてまれだった。
リップシュタット戦役に敗れたメルカッツは自ら命を絶とうとするが、シュナイダーはそれを阻止。そして自由惑星同盟への亡命を勧めるのである。
過去にほとんど前例のないことを勧めたシュナイダーは、常識にとらわれない柔軟な思考の持ち主であることが分かる。そして上官のため、自らも故郷を捨てて亡命するという決意は、並大抵の忠誠心でできることではない。
結果としてシュナイダーの意見を聞き入れたメルカッツは、同盟軍のヤン艦隊のもとで活躍することになる。シュナイダーの進言は1人の提督の運命を変えただけでなく、銀河の歴史にも大きな影響を与えたといっても過言ではない。
亡命後もシュナイダーは、敬愛するメルカッツを補佐し続けた。伊達と酔狂を信条とするヤン艦隊とはノリが違う部分もあったが、かつては敵対していた陣営にも馴染んでいく。
とはいえメルカッツのかつての僚友ファーレンハイト上級大将の戦死を知ると、ヤン艦隊にいながら喪章をつけるなど、メルカッツ同様、人間的にも素晴らしい人物だった。
ヤン艦隊においてシュナイダーのメルカッツに対する忠誠心を悪く言う者はおらず、お調子者で知られるオリビエ・ポプランも「帝国軍に残っていれば皇帝ラインハルトのもとで出世できただろうに」と皮肉をいうほど高く評価され、同時に慕われていた。
■ラインハルトを支えた若き副官
最後に紹介するのは、若くしてラインハルトの次席副官に抜擢されたテオドール・フォン・リュッケである。
実はリュッケは、ラインハルトと同い年である。異例の速さで昇進したラインハルトと比べると地味に思えるが、リュッケの若さで最高司令官の副官になること自体、彼の優秀さを証明している。
だが作中、特にアニメ作品ではリュッケの影は薄く、彼の有能さを示す描写は限られている。
まだラインハルトの副官に任じられる前、リュッケはカール・グスタフ・ケンプ提督の率いる艦隊に所属。そのときケンプ艦隊は同盟軍のヤン艦隊と戦闘になった。
戦況はヤン艦隊のほうが優勢だったが、ここでケンプ艦隊を撃滅したところで戦闘全体には大きな影響はないとヤンは判断。戦線を離脱しようと艦隊を後退させていたが、ケンプはそれを「魔術師」と称されるヤンの罠だと考えて深追いしなかった。
だが当時、士官学校を卒業したばかりのリュッケは、「敵が戦意もなく、ただ逃げているように思われます」と発言。このリュッケの言葉は一笑に付されたが、ケンプ艦隊の司令部で唯一彼だけがヤンの狙いを見抜いていたように映る。
これは単なる偶然かもしれないが、個人的にはリュッケは戦場全体が見えていたからこそヤンの思惑が分かったのではないかと感じた場面であり、リュッケの才覚の高さを裏づけるエピソードの一つとして紹介した。
ちなみに、ケンプ艦隊での出来事は小説のみで描写されているシーンなので、アニメ派の人にはイマイチ優秀さが伝わりにくいかもしれない。それが少し残念である。
『銀河英雄伝説』において優秀な艦隊司令官の隣には、必ずといっていいほど優秀な副官たちがいた。そんな副官たちの存在が、上官の意思決定にどのような影響を与えていたのか、そのような部分に注目しながら作品を見直してみると、新たな発見があるかもしれない。


