銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家の争乱を描く田中芳樹氏によるSF小説『銀河英雄伝説』は、ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーという2人の英雄が物語の中心となっている。
艦隊同士による戦闘描写が多い本作では、優秀な艦隊司令官が数多く登場する。だが、いくら優れた人物とはいえ、個人の能力だけで艦隊司令官の地位にまでのぼり詰めることができたわけではない。
彼らを支える優秀な副官がいるからこそ、司令官として戦場で才能をいかんなく発揮し、勝利することができるのである。もちろんそういった優秀な人材に巡り合い、才覚を見出して副官に任命することも英雄の英雄たるゆえんであろう。
ただ、艦隊を指揮する提督たちのように、目に見える戦果を挙げるわけではない副官たちはどうしても優秀さが伝わりにくく、日の目を見る機会が少なくなりがちである。
だが、副官によって助けられた指揮官は多いうえ、副官が意外な才能を発揮したエピソードも存在する。今回は、そんな副官たちの優秀さを表す活躍について紹介していきたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■副官の席まで自力でたどり着いた努力と才能
まずはヤンの副官だったフレデリカ・グリーンヒルである。彼女は士官学校を次席で卒業していたり、抜群の記憶力の良さがフィーチャーされたりと、とにかく優秀さが際立っている。
さらに女性の登場が少ない本作において、ヒロイン的な立ち位置であるといってもいい。14歳のフレデリカは惑星エル・ファシルにて若かりしヤンと出会い、「エル・ファシルの英雄」の活躍を目の当たりにしている。その後、彼女の努力と実力によってヤンの副官の座に就くのである。
ドワイト・グリーンヒル大将の娘でありながら、自らの力を示して副官の任に就き、やがてヤンの心を振り向かせて結婚にまで至るのだから「すごい」のひと言である。才能、努力、運のいずれも兼ね備えていた人物といえるだろう。
そんな彼女の有能さを表すエピソードといえば、ヤンが査問会にかけられた際の行動である。ヤンの査問会は、国防委員長トリューニヒトの一派がヤンに精神的リンチを行うために、何の根拠もなく行われたものであった。
フレデリカはヤンを解放するために、宇宙艦隊司令長官のアレクサンドル・ビュコックに接触しようと奔走。その行動が過激派の憂国騎士団の目にとまり、あやうく粛清されそうになるが、すんでのところでビュコックに助けられている。
聡明な彼女は、その行動が招く危険も承知していたはず。それでも、自らの危険を顧みず、尊敬する上官を救おうとした行動は、なかなかできることではない。副官として上官や職務への忠実さを示す行動ともいえるが、ヤンを救いたいという彼女の強い想いを感じたエピソードである。
ちなみに、査問会についてヤンに尋ねられたフレデリカは即座に、憲法にも同盟憲章にも規定がない旨の回答をしていた。はっきり「規定がない」と言い切るあたり、法令をすべて暗記しているのではないかと思わせる、彼女の卓越した記憶力に驚かされたシーンでもあった。


