1990年代に発表された少女漫画の中には、令和の今も「名作」と呼ばれ語り継がれる作品がたくさんある。ギャグにバトルにとさまざまな作品が描かれてきたが、中でも少女たちをドキドキさせてきたジャンルといえばやはり恋愛ものだろう。90年代は、主人公の少女がとにかく色々なイケメンたちにモテるという、今でいう「逆ハーレム」といえる漫画が台頭してきた時期だ。
そもそも女性向け恋愛ゲーム、通称「乙女ゲーム」の発祥は1994年にコーエーから発売された『アンジェリーク』だと言われている。では、乙女ゲームもまだ存在していなかった頃の、少女たちが憧れてやまない主人公たちは作品の中でどれほどモテていたのか。今回は90年代の主人公モテすぎ漫画を紹介したい。
■イケメンたちからモテまくった『セーラームーン』月野うさぎ
まずは、1992年に放送開始したアニメが社会現象となり、今もなお根強いファンに愛されている武内直子氏による漫画『美少女戦士セーラームーン』。
主人公のセーラームーンこと月野うさぎの“モテ力”は、それはもう凄まじいものだった。特に1992年より放送していた旧アニメ版では、シリーズを重ねることにうさぎのことを好きになるキャラが続々登場した。
その代表格は、言わずもがな前世からの恋人であるタキシード仮面こと地場衛だろう。初対面のお互いの印象は最悪で、衛はうさぎを「お団子頭」と呼び憎まれ口を叩き合う仲だった。
しかし敵の攻撃で、セーラームーンとタキシード仮面、それぞれがお互いの正体を知り、意識し合うようになる。ここからシリーズ完結までうさぎは衛への愛を貫くのだが、うさぎは敵味方問わず多くのキャラから好意を向けられることとなる。
「無印」ではクラスメイトのメガネ少年、海野ぐりお。『美少女戦士セーラームーンR』前半の魔界樹編に登場する、アニメオリジナルの敵であるキャラクター・エイル(銀河星十郎)。そして『R』の後半に登場するブラック・ムーン一族のリーダーであるプリンス・デマンドも、うさぎ、もとい30世紀の未来で、うさぎの未来の姿であるネオ・クイーン・セレニティの瞳に恋をしていた。
さらには、セーラー戦士にもうさぎに特別な思いを向けているキャラは多く、 セーラーウラヌスに変身する天王はるかは、アニメでは男装の麗人として描かれており、前世で心の支えにしていたプリンセス・セレニティの生まれ変わりであるうさぎを守りたいと思っているようだ。
また、アニメ5期『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』に登場する、変身前は男性で、変身すると女性になるという設定の美少年アイドル・星野光もうさぎへの切ない片思いの描写が印象的だった。
うさぎといえば、ドジで泣き虫でおっちょこちょい。さらには遅刻の常習犯で、学校の成績もかなり悪く、運動音痴でもある。
なぜ彼女がモテるのか。主人公だからといえば元も子もないが、うさぎの天真爛漫さと仲間を大切に思う意志の強さは女性が見ていても、人として大切なことを教えてくれているようでハッとする。
そんな姿を見ていたら、『セーラームーン』のロマンチックな世界観に憧れた人が多いのも頷ける。
■旅の仲間たちにモテ続けた『ふしぎ遊戯』夕城美朱
続いては、1991年に『少女コミック(現:Sho-Comi)』(小学館)で連載開始され、1995年にはアニメ化もされた渡瀬悠宇氏のアドベンチャー漫画『ふしぎ遊戯』を振り返りたい。
同作は、古代中国の四神をモチーフとした異世界を舞台に、愛と戦いを描くバトル、ロマンス、ファンタジーが融合した漫画。
物語は、主人公の女子中学生・夕城美朱が、図書館で見つけた謎の古書「四神天地書」の世界に友人と一緒に吸い込まれるところから始まる。彼女は元の世界に戻るため、「朱雀の巫女」となり、神獣・朱雀を召喚するために七人の戦士である「朱雀七星士」を探す旅に出る。
旅を続け仲間はどんどん増えていくが、朱雀七星士はみな男性で美朱は人紅一点の存在。仲間たちはどんどん美朱に惹かれていく。
美朱は物語の初めに出会った鬼宿と早々に恋仲になるが、皇帝の星宿に好意を向けられ、はたまた、女性の服を着た男性として登場し、初めは星宿をめぐって恋のライバルだった柳宿も物語の途中から美朱を恋愛対象として意識するように。
仲間の中には、女嫌い、他に想い人がいる、年端も行かない少年など、さまざまな事情がある人もいるが、それ以外はみんなが美朱のことが好きになっているのでは? と思うほど。
しかも原作漫画2部では、美朱には思い合う相手がいるにも関わらず、仲間の翼宿が敵の術によって美朱とキスしてしまうという展開もあった。
様々なタイプのイケメンがよりどりみどりの作品だけに、読者にとっては羨ましくて仕方ない旅に見えたかもしれない。しかも、少女ならドキドキするような大人な描写も『ふしぎ遊戯』の魅力だったからなおさらだ。
しかし、『ふしぎ遊戯』はドキドキの恋愛要素だけを描いた作品ではない。激しい戦いの末に大切な仲間を失ってしまうシリアス展開もあり、ドキドキを求めて漫画を読んでいた人は大きなショックを受けたのではないか。
美朱もうさぎ同様、仲間思いで、おてんばだが意志の強さと優しさを持つ女の子。守られるだけの女の子じゃなく、時には自分を犠牲にしてでも仲間を守ろうとするところが彼女の魅力なのかも。


