■「人は信じるべきか、騙すべきか」というテーマ

 また、『LIAR GAME』が他の心理戦マンガと一線を画すのは、勝敗や金銭以上に「人は信じるべきか、騙すべきか」というテーマが中心に据えられている点だ。秋山の策略は相手を打ち負かすためだけでなく、ナオの信頼や人間の善性を引き出す方向に働くことが多く、敵だった人物が味方に転じたり、互いに協力してゲームをクリアしたりする展開も少なくない。

 実際、最終ステージ手前の「イス取りゲーム」では、勝つことよりも信頼を積み重ねることこそが勝利の鍵となり、読者に強い印象を残した。こうした「敵味方の境界が揺らぐ」人間関係のドラマが、ルールよりも強い牽引力を持っているため、ルールが複雑でもページをめくる手が止まらないのだ。

 さらに秋山深一というキャラクターの存在も大きい。天才詐欺師でありながら人間味を持ち、ナオを守り導く彼の見事な立ち回りは、ルールの複雑さを逆に際立たせる。難解なゲームほど、秋山のロジックが炸裂する瞬間が鮮烈になり、読者は「そんな手があったのか」と驚かされる。

 これは『カイジ』が「自分がその場にいたらどうするか」を考えさせる作り、『嘘喰い』が「ギャンブルと暴力が絡み合う世界で、主人公がどう勝ち抜くか」を臨場感たっぷりに伝える作りになっているとしたら、『LIAR GAME』は「秋山の天才性を観客席から楽しむ」構造になっている、といえるだろう。

 

 今回のアニメ化発表は、漫画版『LIAR GAME』の魅力がまた新たな形で再評価されるチャンスでもある。複雑なルールのゲームをどこまで映像で表現し、秋山やナオの心理戦をどのように際立たせるのか。ルール説明を重視するというよりは、原作が持つ「人間ドラマ」としての魅力がどう描かれるのかが楽しみだ。

 ルールが分からなくても引き込まれる心理戦の面白さ──それこそが、20年を経ても色あせない『LIAR GAME』の真骨頂なのである。

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