■気持ちを言葉にして伝えなかったから…「ゾンビが死んだ夜」

 アニメ582話の「ゾンビが死んだ夜」は、アニメオリジナルのエピソードだ。男女のお笑いコンビに起こった悲しいすれ違いは、多くのファンの心に残っているだろう。

 物語はお笑いコンビとして活躍する藤森朝子という女性が、ストーカーの相談のため、毛利探偵事務所を訪れるところから始まる。調査に協力した小五郎たちは、後日、朝子の誕生日パーティーに招待される。

 しかしパーティー当日、準備をしていた朝子はゾンビの覆面を被った男性に襲われ、抵抗した際に、持っていた包丁で相手を刺殺してしまう。ストーカーだと思われた覆面の男性は、お笑いコンビの相方・今岡次郎だった。

 次郎は朝子とのコンビを解消したがっており、マネージャーに朝子への不満を何度も漏らしていた。覆面を被って襲ったのも、コンビを解消するための脅しだった可能性があった。

 だが捜査を開始したコナンは、朝子が殺意を持って次郎を刺したことを見抜く。殺害の動機は、コンビの解散だった。彼女は、次郎がマネージャーにコンビ解散を相談しているのを偶然知ってしまったのである。

 朝子は、お笑いコンビとしても、そして男女としても、次郎と気持ちが通じ合っていると思っていた。しかし次郎は数々の女性との関係が噂されており、ついには一方的にコンビの解消までしようとしている……その裏切りが許せなかった。

 罪を告白した朝子のもとに、次郎からの荷物が届く。中には「結婚してくれ」と綴られた手紙と、婚約指輪が入っていた。彼がコンビ解消をしようとしていたのは、体の弱い朝子の体調を気遣ってのものだったのだ。

 相手を大切に想っているのに、素直にそれを口に出せなかった次郎。そして次郎を大切に想うあまり、裏切られた憎しみを抑えられなかった朝子。あまりにも切ないバッドエンドが話題となった、アニメオリジナル回であった。

 

 愛しているからこそ、素直に言葉にできない。愛しているからこそ、憎しみが抑えきれなくなってしまう。こうした勘違いが引き起こした切ない事件は、ほろ苦い後味とともに多くの人の記憶に刻まれていることだろう。

 『名探偵コナン』の切ない事件と聞いて、あなたはどの事件を思い浮かべるだろうか。

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