■エース沢北の「個」の限界

 最後に取り上げたいのは、「絶対的エース・沢北栄治の出来」である。彼は随所でスーパープレーを披露し、流川との純粋な1on1勝負では圧倒的な実力差を見せつけた。だが、試合全体を通して「100点満点のパフォーマンスだったか」と問われれば、疑問が残る。

 前半は集中力を欠き、早々にベンチへ下がる。後半、満を持してコートに戻ると、深津とともに宮城リョータへのプレッシャーを強めつつ、いよいよ流川との本格的なマッチアップが始まる。

 1on1では依然として上回ったものの、流川が途中から「自ら打つ」だけでなく「仲間を生かす」方向へ舵を切ったのに対し、沢北は終始スタイルを変えなかった。作中で確認できる限り、彼のアシストは“0”。攻撃の幅を広げることなく、最後まで個の力のみで打開を図り続けたのである。

 さらに試合終盤には、予想外の活躍を見せた桜木の存在感が増し、得意の1on1にさえ集中しきれない場面も見られた。もちろん個人技では高校バスケ界屈指のスコアラーであることに疑いの余地はなく、この試合でも少なくとも26得点以上をあげている。

 数字的には十分な結果といえるが、しかし、勝敗という観点に立てば「チームを勝たせる存在」にはなり切れなかった。

 2年生エースに敗因の一端を背負わせるのは酷である。だが、それでも渡米を控える“日本一のプレイヤー”としては、課題を残したのもまた事実だろう。

 

 湘北の死力を尽くした戦いが、奇跡的な勝利を引き寄せたのは間違いない。しかし同時に、今回挙げた3つの敗因をはじめ、その他複数の要因が重なり合った結果、盤石に見えた山王の体制にほころびが生じていった。

 常勝軍団ゆえの勝利への確信、データでは測れない選手の急成長、そして“個”の限界。王者の敗北は、スポーツの奥深さとドラマ性を一層際立たせたと言えるだろう。

 だからこそ、この一戦は、今なお語り継がれる名勝負として輝き続けているのである。

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