■自分の美貌に絶対の自信を持ち愛する男性を破滅させる…『富江』川上富江

 約40年前に発表された伊藤潤二さんの『富江』(1987年連載開始)は、今なお多くのファンを持つ人気作だが、2024年頃から韓国でも大ブームになった。絶世の美貌を持つ少女・川上富江が、彼女を愛する男たちを破滅へと導くサスペンスホラーである。

 本作の恐ろしさは、富江を愛する男は彼女に対し“異常な殺意”がわくこと。さらに富江は何度殺されても死ぬことはなく、バラバラにされたらその1つ1つが“別々の富江”になる。

 そんな富江が「史上最高の美女」である理由について作者の伊藤さんは、2023年『AERA DIGITAL』で「恐怖を引き立てるために欠かせない存在」であり、「恐ろしさを際立たせ、増幅される『装置』」だと語っている。

 本作で筆者がもっとも富江に恐怖を感じたのが、「富江 PART2 森田病院編」だ。森田病院には腎臓を患う少女・三尾雪子が入院していたが、彼女のボーイフレンド・北山正は“麗子”と名乗る傲慢で美しい女性を好きになっていた。そんなある日、麗子は雪子に正と別れるよう酷い言葉でなじる。

 わがままで嘘ばかりの麗子に疲れ果てる正だが、なぜか無性に麗子を「殺したい」衝動に駆られ、ナイフでめった刺しにしてしまう。その後麗子の父親を名乗る男の承諾により、彼女の身体は臓器提供され、そのうち腎臓は雪子に移植されることとなった。

 移植が成功し、ドナー提供者に感謝する雪子だが、回復すると同時に腹部が異常に膨れ上がり始める。あわてて医師が開腹手術をすると、そこには“腎臓”から復活しかける麗子こと富江の頭が……。美しい富江であるが、復活しかけの彼女の姿はどれもトラウマ級のインパクトがあった。

 

 今回紹介した昭和ホラーの美女たちは、気まぐれでやさしく、そして恐ろしいほど残酷でもある。

 だが、彼女たちの並外れた美しさの裏には、計り知れないほど複雑な真実が隠されており、ひょっとすると私たち人間の尺度を越えた世界での“正解”なのかもしれない。

 皆さんにとって魅力的なホラー作品の美女と言えば、一体誰であろうか?

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