■車掌に「気をしっかり持て」とまで言われたトラウマ回「絶対機械圏」
「絶対機械圏(マシンナーズ・エリア)」は、本作屈指のトラウマエピソードといっても過言ではない。
「機械砦」という駅に到着した999号。そこは生身の人間は決して足を踏み入れない、機械化人だけの星だった。到着後、人間を見下す機械化人の嫌がらせにより、鉄郎は下水道に落とされてしまう。
鉄郎が落ちた先には、母親と幼い子どもがいた。彼女たちは機械化人によって死刑にされ、この地下牢で最期の時を待つ死刑囚だという。
その後、鉄郎とその親子はメーテルによって救出される。一行はホテルに滞在するが、母親は“機械化人に魂を売るなら死んだ方がいい”といって、子どもを連れて地下牢へと戻るため、出て行ってしまうのだ。
だが、ホテルを出た瞬間、母親は機械化人の光線により処刑されてしまう。さらに幼い子どももまた、鉄郎の目の前で同じように殺されてしまうのだ。
「なんてことを……なんて……ことを…… あんなちっちゃな子まで!!」と、ショックを受ける鉄郎。999号に戻ったあとも口数は減り、車掌に「メーテルはわざとぼくに機械人の星を見せたんだろうか…」とつぶやき、同じように殺された母親を思い出し、落ち込んでしまう。
普段あまり真面目なことを言わない車掌も、この時ばかりは「気をしっかりもってください」「旅は長く続きます。きっと いいことだってあります」と、鉄郎を励ましている。
999号の旅で鉄郎は処刑された多くの人々を見てきた。しかし自分より幼い子どもが目の前で処刑される姿を見たのは初めてであり、言葉にはできないほどの衝撃を受けたのだろう。
いずれにせよ、今回の出来事により、鉄郎の「機械の身体になりたい」という考えが大きく揺らいだのは間違いないだろう。
このように『銀河鉄道999』には、今の日本では考えられないような残酷な描写もたびたび登場している。しかしこうした出来事は決して物語の中だけの話ではなく、現実のどこかの国で実際に起きていることもあるのだ。
本作は時に人間の残酷な描写を通して、私たちにどう生きるべきかを問いかけているように思う。これも、『銀河鉄道999』が不朽の名作と呼ばれ、世代を超えて読み継がれている理由なのかもしれない。