
松本零士さんの不朽の名作『銀河鉄道999』は、宇宙を旅する少年・星野鉄郎と、謎の美女メーテルが、999号に乗って未知なる星を巡るストーリーだ。
行く先々の星で、鉄郎はさまざまな体験を重ね、時には心を温かくする出会いを経験する。だが、その一方、あまりにも凄惨で目を覆いたくなる場面にもたびたび遭遇している。
そもそも鉄郎が宇宙の旅を決断した理由は、機械伯爵に目の前で最愛の母親を殺されてしまい、さらに剥製にされたというトラウマがあるからだ。
物語のスタートから衝撃的な展開で始まる『銀河鉄道999』だが、ここではそんなショッキングなシーンが登場するエピソードを紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■豊かさの裏に潜む残酷な現実「鋼鉄天使」
まずは、停車駅に到着するなり、鉄郎が若き少年の銃殺体を見つけるエピソード「鋼鉄天使」を紹介したい。
宇宙を旅する999号は突如“対空砲火”を浴び、窓にヒビが入る。その後、到着したのは、ありとあらゆる物を製造する工場惑星「マスプロン」だった。
駅を出てすぐ、鉄郎は自分と同い年くらいの少年が銃殺された遺体を目にする。彼は999号に対空砲火を浴びせた張本人であり、その罪で駅前銃殺隊によって処刑されたのだ。“列車のガラスにヒビが入っただけなのに銃殺なんて……”と、ショックを隠せない鉄郎。
その後、ホテルで休もうとした鉄郎とメーテルだったが、それも束の間、今度はクローマリアという少女にホテルを爆破され、2人は気絶してしまう。
クローマリアは星を汚しながら物を作り続ける政府に対応し、反乱を企てる少女だった。その後、彼女も駅前銃殺隊によって処刑されそうになるが、鉄郎はそれを慌てて止め、事なきを得た。
マスプロンは工場製品を全宇宙に販売し、それにより豊かに暮らしている星だ。しかし、その豊かさと引き換えに、それに歯向かう者の命が軽んじられているのも事実である。鉄郎が目の当たりにした凄惨な光景は、権力に抗うことの代償と、それでも希望を捨てずに立ち向かう若者の姿であった。
その後、クローマリアは彼女の仲間たちと999号をハイジャックするのだが、最終的にメーテルから空間鉄道のパスをもらい、星からの脱出に成功する。恐ろしい星ではあったが、“胸をはって物を造れる新しい惑星をたずねていく”という希望に満ちた彼女たちの願いが叶えられたことが、せめてもの救いだった。
■バルコニーから見える、子どもを置いて射殺された母の姿…「砂の海のロンメル」
悲しき母子の姿が描かれた「砂の海のロンメル」も、ショッキングなエピソードだ。
鉄郎とメーテルが降り立ったのは、すべてが砂で覆われた「砂漠のキツネ」という名の駅。ホテルに滞在中、鉄郎は砂の中から現れた謎の女性にトランクごとパスを盗まれ、砂の中に引きずり込まれてしまう。その女性は、砂漠のキツネ・ロンメルの部下だと名乗り、メーテルのトランクまで奪い去る。
その後、砂の流れに流された鉄郎はロンメルの戦闘指揮車に助け出され、尋問を受ける。光線のようなものを撃たれて気を失った鉄郎が再び目を覚ますと、そこはホテルのベッドの上だった。
しかし、ベランダ越しに彼の目に飛び込んできたのは、パスを奪った女性がこれみよがしにはりつけにされ、処刑された痛ましい姿だった。
999号が飛び立ったあと、夜の砂漠には「かあさん… かあさん…」と呼び、彷徨う1人の子どもの姿が……。つまり女性は、幼い子どもを残したまま処刑されてしまったということだ。
この星はすべてが砂に覆われており、秘密組織の砂漠軍・ロンメルによって規律が保たれていた。そのような息苦しい星から脱出すべく、女性は盗みを働いてでも我が子との未来を考えたのだろう。広大な砂漠で一人残された子どものことを思うと、非情に胸が苦しくなってしまうエピソードだ。