■主人公が仕掛けた大胆なブラフ『ジョジョの奇妙な冒険』

 1986年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が開始された『ジョジョの奇妙な冒険』は、とある一族にまつわる数奇な運命と因縁の戦いを、時代、舞台を変えながら何世代にもわたって描いた能力バトル漫画の金字塔である。

 荒木飛呂彦氏の代表作として知られる本作は、ホラーテイストでありながら王道の熱さを秘めたバトル描写や、相手の裏を探り合う心理戦の駆け引きなど独特の世界観で絶大な人気を誇る。

 そんな本作において、意外な方法で相手の嘘を見抜いたキャラといえば、第3部の主人公・空条承太郎が挙げられる。

 エジプトへの船旅の途中、承太郎一行は謎の敵スタンド「ダークブルームーン」の襲撃を受けるのだが、承太郎はスタンドの本体が船に同乗している船長・テニールであると断定するのだ。

 はじめはとぼけていたテニールだったが、承太郎は“スタンド使いには常人とは異なるある大きな特徴がある”と、一同に告げる。

 それは、“タバコの煙を吸うと、鼻の頭に血管が浮き出る”というものだった。

 直前まで承太郎がタバコを吸っていたこともあり、その場の仲間たち、そしてテニールも慌てて自身の鼻に触れ、確認してしまう。

 しかし、実はこれこそが、スタンド使いをあぶり出すために承太郎が仕掛けた真っ赤な嘘であった。

 そもそもスタンドというものの存在を知らない一般人ならば、そもそもこの言葉に反応などしないはず。承太郎が投げかけた嘘に見事に引っかかったテニールは、自らの行動により自身がスタンド使いであることを白状してしまったのである。

 普段は圧倒的なパワーを持つスタンドで相手を撃破するイメージが強い承太郎だが、このような卓越した洞察力や機転で相手の精神を揺さぶり、策を見破る頭脳プレーも見事だ。これもまた、彼の大きな魅力の一つだといえるだろう。

 

 己の素性を隠すことで主人公たちへと迫る敵キャラクターたちだが、あまりにも意外な切り口で嘘を見抜かれ、一気に形勢逆転する展開も珍しくない。

 本物が持つ「幸運」を逆手に取られたり、何気なく放った一言が相手の「地雷」だったり、あるいは「嘘」を仕掛け返されて……と、その方法はさまざまだ。

 敵キャラクターたちにしてみれば、まさかそんなことで偽物だとバレてしまうとは、思いもしなかっただろう。

 嘘が暴かれるシーンは読者としては爽快感を味わえる反面、敵キャラクターたちがなんとも不憫に思えてしまうのも、また一興だろう。

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