■もっと本人がしっかりしていれば防げた…?「ローアン大司教」

 ローアン大司教は、上述した“首飾り事件”の被害者である。フランスの枢機卿という高位の聖職者である彼は、ジャンヌにまんまと騙され、アントワネットに献上するつもりで高価な首飾りの保証人になってしまった。作中ではアントワネットに一方的な想いを寄せる、ちょっと頼りない大司教として描かれている。

 作中、ジャンヌの策略により、王妃からのラブレターや署名入りの契約書を本物だと信じ込んでしまったローアン司教。それどころか、王妃にそっくりな娼婦を本人だと疑わずに逢引きをし、自分が王妃のために役立っていると疑わなかった。

 これらはすべてジャンヌやニコラスが仕組んだ罠で、ローアン大司教は騙された立場である。だが、詰めが甘いのも事実だ。彼の軽率な行動や注意力の欠如がなければ、計画は成功しなかったであろう。

 すべてが露呈したあと、国王はローアン大司教に対し“そもそも王妃の筆跡とは違うし、このようなサインはしないということを宮廷のだれもが知っているはずだ”と指摘。大司教はここでようやく我に返っている。

 この“首飾り事件”をきっかけに、アントワネットは浪費を重ねていることが知られ、民衆の反感を買ってしまう。もしもローアン大司教が聖職者として分別のある人物であったなら、この事件は防げたうえ、アントワネットの評判がここまで地に落ちることはなかったかもしれない。

 

 「権力には孤独がつきもの」というように、望んで王妃になったわけではなくてもアントワネットはその立場ゆえに多くの人から嫉妬や反感を買うことも多かった。とくに、情報が歪んで伝わりやすいこの時代は真実が曲げられて伝わることも多く、仕組まれた罠や個人の浅はかな行動がアントワネットの人生に計り知れないほどの苦しみをもたらしたとも言えよう。

 アントワネットは処刑される直前、髪の毛が一晩で真っ白になったという説もある(『ベルばら』作中では、ヴァレンヌ逃亡事件の失敗後にブロンドの髪が白髪になっていた)。その原因の1つは、今回紹介したアントワネットを苦しめた彼らの存在があったのかもしれない。

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