
最終回を目前に控え、ますます盛り上がりを見せる『仮面ライダーガヴ』(テレビ朝日系)。本作は、カラフルなグミや美味しそうなチョコやプリンといった、“お菓子”をモチーフにしたライダーたちが活躍し、ポップで華やかな世界観が特徴である。
だがその世界観は苦いものであり、主人公・ショウマは異世界・グラニュート界からやってきた青年であり、世界に闇菓子を蔓延させるストマック家が経営するストマック社と戦うというストーリー。ショウマを含め、物語には闇菓子によって人生を狂わされたキャラが多数登場しており、思わず胸が締めつけられるような重厚な人間ドラマが描かれることもあった。とくに、敵として登場した怪人・グラニュートたちは、単なる“悪”としてのキャラではなく、それぞれに事情や想いを抱えており、切ない最期を迎えた者も少なくない。
今回は、そんな『仮面ライダーガヴ』の中でも、とくに心に残る3人の怪人たちの別れを振り返りたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■最後に見せたのは執念か愛情か…危険な科学者「酸賀研造」
声優・浅沼晋太郎さんが演じた自称「グラニュート研究家」の酸賀研造は、物語中盤までストマック社以上に混乱をもたらした危険な科学者だった。
彼は、フリーライターの青年・辛木田絆斗に実験を行い、仮面ライダーヴァレンに改造した張本人。さらにショウマの細胞を盗み出してダークショウマ/ビターガヴを量産し、危険な実験で少なくとも8人の命を奪うなど、冷酷な人物だった。
しかし、その奥底には、深い喪失があったのかもしれない。ビターガヴの培養室にはベビー用品が無造作に置かれており、奥には赤ん坊を抱き、微笑む酸賀の写真が飾られていたのだ。かつて我が子を失い、その悲しみから“二度と死なない強い存在”を求め続けたのかもしれない。彼のバックボーンについて、劇中ではいっさい明言されることはなかったものの、そんな悲しい過去を想像させるわずかなカットだった。
やがて酸賀は、自らの手で造り出したヴァレンによって皮肉にも一度葬られる。だがその死は終わりではなく、物語終盤、第41話・第42話でストマック家の次男ニエルブ・ストマックにより自我と肉体を奪われ、ゾンビとして蘇らされてしまう。
意志も誇りもないはずの“使い捨ての傀儡”となった酸賀だが、戦いの最中、不意に「コレハ……俺ガ……守ルゥ……!!」と、まるで我が子をかばうかのような体勢で、自身が開発したベイクマグナムを抱き、死守するのだった。
死してなお酸賀に残ったのは、科学者としての執念か、それとも父親としての本能だったのか。その答えは誰にも分からない。
■許されぬ罪を背負った和菓子職人「ラゴー」
人間の生活に馴染んで暮らす怪人は過去の『仮面ライダー』にも見られたキャラクターだが、悲しい最期を迎えることが多い。
猟犬やハイエナを思わせる姿のグラニュート・ラゴーは、かつてストマック社の手先となって動き、絆斗の母・早恵をさらった張本人だ。しかし第37話・第38話では、その後のラゴーが罪悪感に苛まれ、ストマック社から離れて更生の道を歩んでいることが明かされる。
人間に擬態し「斎藤健二」と名乗ったラゴーは、少年・安藤寛人の母が営む和菓子屋「あんどう」で職人として働いていた。亡き主人への義理を果たし、店を立て直すため懸命に働く日々。しかし、その正体が母の仇であると知った絆斗は激しい怒りをぶつける。母をさらい、命を奪った相手が目の前にいるのだ。容易に許せるはずがない。
それでもラゴーは、せめて安藤家の恩に報いるための新作和菓子「アニマルわがし」を作り上げるまでは生きさせてほしいと懇願する。そして完成の日、人目のない河原で自らグラニュートの姿を現し、絆斗に「復讐を果たせ」と促した。
ここまでの物語では、復讐が次の恨みを呼び、敵討ちの連鎖が続く展開があった。だがここで絆斗は、「許したわけじゃない」と苦悩しつつも、「寛人君にとってかけがえのない存在をオレは奪えない」と告げ、その場を去っていく。ラゴーはその場で膝をつき、静かに崩れ落ちるしかできなかった。
しかし、その束の間の救いも長くは続かないのが、この怪人の悲しいところ。ある閉店後の夜、ラゴーはストマック家の長女・グロッタに見つかり、「成績不良のバイト」として無情にも粛清されてしまうのだ。
せめて、彼が作り上げた「アニマルわがし」が「あんどう」に残り続けてほしいと願うばかりだ。