■治療しても生きる力は本人次第「されどいつわりの日々」
「されどいつわりの日々」では、人気アイドルの桃田善江が事故で全身麻痺になり、ブラック・ジャックが手術をする話だ。
天才的な技術で善江の手術を成功させたブラック・ジャックだが、彼女の身体は動かない。善江には治りたいという気持ちが全くないのだ。
その後、ブラック・ジャックの荒療治によって体が動くようになるも、芸能活動に絶望していた善江はなんと自ら命を絶ってしまう。「おれはなんのために助けたんだ!!」というブラック・ジャックの叫びが切ないエピソードだ。
このエピソードの冒頭では、片腕と胸を車に轢かれた瀕死の子猫も登場する。“どうせ長くは生きられない”と、子猫の生存を絶望視していたブラック・ジャックだが、善江が死んだあと、その子猫がふらつきながら現れる。それを見たブラック・ジャックは机を叩き、涙を流しながら激しく悔しがる。
どれだけ素晴らしい手術を受けても、その後、生きられるかどうかは本人の気力に大きく左右される。生きるということは、医学の力だけではどうにもならないことを示すエピソードであった。
このように『ブラック・ジャック』には、非業の死を遂げる女性のエピソードも少なくない。アンハッピーな結末には胸が苦しくなるが、実際に医師免許を持っている手塚さんだからこそ、命の尊さを生々しく描くことができたのであろう。
『ブラック・ジャック』は時代を超え、私たちに命の重みと医療の倫理を問い続ける作品である。