■父親のための願いが家族を不幸に…

 佐倉杏子は願いによって家族が不幸になってしまった。彼女の父親は聖職者で、純粋に人を救いたいと願っていたにもかかわらず、誰にも話を聞いてもらえず信者にも恵まれなかった。愛する父親のそんな姿を見て歯がゆく思っていた杏子は、キュゥべえと契約するという最悪の道を選んでしまう。

 おかげでたくさんの人が父親のもとへ来るようになったが、それが魔法の効力だと知った父親は深い闇に落ちる。杏子を魔女と罵り、酒浸りとなって錯乱状態となった末に、最後は彼女を残して一家心中してしまう。

 そんな過去から杏子は他人に構わず我が道を行こうとしたが、魔女へと姿を変えたさやかを放っておけなかった。さやかに必死に呼びかけ、まどかを逃がすために最後は自爆する。

 この時杏子が放った「独りぼっちは、寂しいもんな」「いいよ、一緒にいてやるよ」というセリフは、作中屈指の名ゼリフのひとつとして知られている。当初は単独行動を見せていた彼女が他人のため自己犠牲を選んだのには驚かされたが、心揺さぶられる美しい最期だった……。

■ひとりぼっちで“やり直し”を続ける

 魔法少女の中でも最も数奇な運命を持つのが暁美ほむらだ。ほむらは時間操作の能力によって何度もやり直しを繰り返していた……。大好きなまどかが魔法少女として戦い命を落とすという、不幸な結末を変えたかったのだ。

 ほむらはまどかを救いたい一心で何度もやり直しを続ける。それが自分の使命だと思っているからだ。だが状況は改善されず、「ワルプルギスの夜」が訪れて仲間たちもまどかも皆命を落としてしまう。まどかが魔法少女にならないよう運命を変えようとしても、その想いは通じない。

 そんなことをひとりで抱えながら繰り返しているほむらは、心が擦り切れて挫けそうになっていただろう。クールで人を寄せ付けない雰囲気の裏にずっと苦悩を隠していたと思うと、胸が締め付けられてしまう。

 誰も理解してくれない状況で、同じことを1からやり直すほむらの姿はかなり痛々しい。もう終わらせてくれ……そう願うしかなかった。

■壮大な願いで世界を作り変えた

 物語の一番の鍵となるのがまどかだ。まどかが魔法少女になることによって、世界が大きく変わったからである。

 まどかは、ほむらが自分のために何度もループしてやり直していると知ると、全てを終わらせようと決断する。そして、魔法少女になるのと引き換えに、“全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を生まれる前に消し去りたい”と願った。

 それにより世界は別のものへと再編され、まどかはありとあらゆる呪いを引き受けるだけの存在となった。もはや人間ではなく「概念」と化した彼女は、作り変えられた世界に存在することはできない。

 しかし、まどかの存在は記憶の一部として残っていて、まどかの両親や弟は存在しない彼女をどこか懐かしむ……。ほむらだけは作り変えられた世界でもまどかの記憶を保っていたことにも、グッときてしまった。

 

 『魔法少女まどか☆マギカ』では、何かを願った魔法少女たちの悲惨な運命が描かれる。全てが思い通りになって綺麗事で終わるわけではない。そうした惨い現実をも描いているからこそ、本作は多くの視聴者の心に残り続けているのだろう。

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