
笑いあり涙ありの感動作が生み出されてきた、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ。今年も、8月8日からシリーズ32作目となる最新作『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』が公開予定だ。今から、過去作を見返しているファンも多いだろう。
ただ、『映画クレヨンしんちゃん』では、子ども向けアニメとは思えないほどの“恐怖シーン”もたびたび描かれている。たとえば、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)における「20世紀博」の描写は印象的だった。子ども時代を懐かしんだ大人たちがまるで小さな子どものようになり、我が子たちを放置して遊び呆ける……そんな異様な世界観は観る者に強烈な衝撃を与えた。
こうした背筋がゾクリとしてしまうようなトラウマ級の描写は、なにも『オトナ帝国』に限った話ではない。今回は『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの中でも、視聴者の記憶に深い爪あとを残した「恐怖のトラウマシーン」を振り返っていく。
※本記事には各作品の内容を含みます
■『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』風間くんのママのそっくりさん
まずは、シリーズ14作『映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』(2006年)から、大人でもゾッとしてしまう恐怖シーンを紹介しよう。
物語序盤から、その「恐怖」は始まる。よしなが先生がしんのすけのおバカを異様に寛容な対応で受け入れたり、マサオくんに辛辣な酢乙女あいちゃんが驚くほど従順だったりと、些細な違和感が徐々に日常を蝕んでいく。やがて、身の回りの人々が次々と「そっくりさん」に入れ替わってしまうのだ。
なかでも強烈だったのが、風間くんのママのそっくりさんだ。リビングでテレビを楽しむ風間くんの背後、キッチンでは偽物のママが薄笑いを浮かべながら包丁を振り下ろし、鶏肉を解体。やがて顔は崩れ、口は耳まで割け、異様に長い舌を伸ばして肉をむさぼり、ボリボリと骨を砕くリアルな音が響く……。
ほのぼのとした『クレヨンしんちゃん』の世界では想像できないようなこの描写は、作中屈指の恐怖シーンだと言える。
中盤では、しんのすけの通うふたば幼稚園までもが多くのそっくりさんに占拠され、カスカベ防衛隊は公園へ避難する事態に。風間くんだけは“僕のママだけは偽物なんかじゃない!”と信じ、自宅へ戻るのだが、彼を待っていたのはにこやかに迎える偽物のママと、「おかえり、僕」と出迎える“自分自身のそっくりさん”だった……。
信じていた日常がいつの間にか塗り替えられ、周囲の人々でさえ敵にすり替わってしまう絶望感。陽気なサンバに乗せた明るいクライマックスとは裏腹に、そこまでの過程はじわじわと侵食してくるホラー映画そのものであった。
■『爆睡!ユメミーワールド大突撃』母親が怪物と化すサキの悪夢
シリーズ24作『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(2016年)は、「夢」をテーマにした異色の一作だ。
ある日を境に「ユメミーワールド」という共通の夢を見るようになった春日部市の人々。そこでは誰でも自身の描く“理想の夢”を楽しむことができるのだが、実はこの夢の世界は作られたものであった。やがて、楽しい夢を奪われ、悪夢ばかり見るようになっていく市民たち。それに気づいたしんのすけらカスカベ防衛隊は原因を探り、陰謀に立ち向かっていく……というストーリーである。
なかでも、本作のゲストヒロイン・貫庭玉サキの見る悪夢描写は、本作屈指のトラウマシーンとなっている。
サキは幼い頃、研究所での事故により、母・サユリが自分をかばって命を落とす場面を目の当たりにしている。その喪失と自責の念が、夢の中で彼女を苛め続けていた。
夢の中で再会するサユリの顔は突如崩れ、腐敗したゾンビのような姿へと変貌……。それを見て逃げ出すサキだが、地面から伸びた手がサキの足を掴み、土の中へと引きずり込もうとするのだ。
サキの夢の中で起こる不条理で抗いようのないこの恐怖シーン。最終的にサキはこの悪夢から解放されるのだが、もしもこんな悪夢を見てしまったら……と、夜、眠るのが怖くなってしまった子どももいるのではないだろうか。