■ナルシストかと思いきや…未来のフリーレンを思いやる銅像

 ここまで完璧超人にしか見えないヒンメルだが、実は自分の美貌に絶対の自信を持つナルシストな一面を持っている。立ち寄った村や町で仕事をした見返りに自分の美しさを後世に伝えるための銅像をよく作らせており、出来が悪ければ気が済むまでリテイクさせていた。

 フリーレンが「人を知るための旅」をしている本編では、世界の各地にヒンメルの銅像が残されているほどだ。

 だが、銅像を作らせた本当の理由はナルシストだからではない。第13話でフリーレンから銅像を作る理由を尋ねられたヒンメルは最初「後世にしっかりと僕のイケメン振りを残しておかないと…」と、ふざけながらも、その後「一番の理由」として本心を口にする。

 「君(フリーレン)が未来で一人ぼっちにならないようにするためかな」と。

 エルフとして1000年を超える寿命を持つフリーレンは、ヒンメルたちが死んで勇者の伝説すら忘れられる遠い未来も生き続ける。その未来でも、ヒンメルの瓜二つの銅像があれば、10年間の冒険は確かにあった出来事なのだと思い出せるはず。そんな祈りを込めて、ヒンメルは世界中に自分の銅像を残したのだ。

 自分の死後に仲間がどうなるかを憂い、できるだけの思いやりを遺そうとする……外見も確かにイケメンなヒンメルだが、その心には到底及ばない。このような愛情深さも、伝説の勇者たるゆえんなのだろう。

 

 第1話で亡くなったヒンメルのエピソードは、基本的に回想として断片的にしか語られない。そのわずかな描写だけで彼の強さや偉大さ、そして優しさが伝わってくる。登場シーンが少ないヒンメルが『葬送のフリーレン』で断トツの人気キャラなのも納得できるほどだ。

 あるいは、エピソードが断片的だからこそ想像力が働き、その魅力が読者のなかで輝くのかもしれない。それこそ、おとぎ話の主人公に子どもが憧れるように。

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