
世界が救われたあとの世界を旅するファンタジー『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人氏、作画:アベツカサ氏)。魅力的なキャラクターが多数登場する本作だが、公式で2度おこなわれた人気投票では、世界を救った勇者・ヒンメルが堂々の2連覇を達成している。
第1話で逝去し、以降はフリーレンの回想という形でしか登場しないヒンメルが、なぜ断トツの人気キャラなのか? 今回は、世界を救った勇者ヒンメルの凄さがわかるエピソードを見ていきながら、その秘密を探っていきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■勇者の剣が抜けなくても魔王討伐を成し遂げた心と力
『葬送のフリーレン』の世界には、女神から地上に授けられた「勇者の剣」という言い伝えがある。「剣の里」近くの聖域に突き立てられた勇者の剣を抜けるのは、世界を滅ぼす災いを撃ち払う者だけ。天に選ばれた真の勇者を示す伝説といえよう。
第25話で語られた過去でヒンメルも「勇者の剣」を抜こうとしたが、なんと抜けなかった。本物の勇者ではないと突き付けられたヒンメルだったが、「いいじゃないか 偽物の勇者で」とパーティーメンバーに語りかけ、偽物のまま魔王を倒してやろうと決意を新たにするのだ。
このシーンの前にヒンメルは本物の勇者に対する強い想いを語っており、それを否定されたことは自身の夢を否定されるに等しかった。それでも前を向くメンタルの強さは、本物よりも本物の勇者らしく思える。
そしてヒンメルら勇者パーティーは、本当に魔王討伐を成し遂げた。伝説の「勇者の剣」がなくても魔王を倒した確かな戦闘力も、本物というべきだろう。
■魔王討伐に10年かかった理由は人助けという名の寄り道
ヒンメルたちの冒険はとても長く、魔王を倒すまで10年かかったことが語られている。その理由は魔族が手ごわかったのもあるが、それ以上にヒンメルの「寄り道大好き」な性格が大きかったという。ダンジョンは行き止まりまで調べるし、魔族と関係なさそうな依頼もこなす。なにより、人助けであればどんなに面倒そうでも必ず引き受けたという。
世界を救う使命を背負っているにも関わらず、なぜ寄り道のような小さな人助けをおこなったのか?
第64話でヒンメルは「こういう面倒な依頼が結果として多くの人を救うことがあるんだ」と言い、続けて「だから僕は困っている人を絶対に見捨てない」と断言する。世界を救う前に、今、近くにいる人を助けたい高潔さゆえに、勇者の冒険は10年もかかったわけだ。
本編でフリーレンは「ヒンメルならそうした」という言葉とともに、一見、無駄な寄り道や人助けをしたりする。その結果として、ヒンメルが死んだ数十年後にいろいろな人が救われてきた。これも、彼が語った「面倒な依頼の結果」の一つなのだろう。