■新鮮さは復活するが記憶も消える「ひさしぶりトランク」

 コミックス30巻に登場する「ひさしぶりトランク」は、そのトランクと一緒にいる人や物を久しぶりに見たような気にさせるひみつ道具だ。これには、“久しぶり”と思わせる期間を変更できる機能も付いている。

 ある日、しずかちゃんと遊ぶ約束をしてウキウキしていたのび太。しかし、しずかちゃんの前に4年ぶりに会う青年が現れ、約束を反故にされてしまう。

 そこでのび太はドラえもんから借りた「ひさしぶりトランク」を使い、5年ぶりに会う設定にしてしずかちゃんに会いに行こうとする。

 紆余曲折あり、最終的に“めちゃくちゃに懐かしがらせてやりたい”と、ダイヤルを20年に設定し、しずかちゃんに会いに行くのび太。だが、のび太は20年前には生まれていないため、しずかちゃんはのび太のこと自体覚えておらず、大失敗してしまう……というエピソードだ。

 「ひさしぶりトランク」は新鮮な気持ちを取り戻したいときには便利な道具だろう。だが、その間に起こった記憶はなくなってしまう。

 仮に5年に設定されたトランクを5歳の子どもが持って親の前に現れたら、親はその間の記憶がないため、作中のしずかちゃんのように自分の子どもだと認識できないことになる。

 そう考えると「ひさしぶりトランク」は、大切な記憶もすべて消去してしまう怖い道具だといえるだろう。新鮮さを味わえるとはいえ、それに対してのリスクはあまりにも大きい。

 今回紹介したひみつ道具たちは、基本的には人に幸せを感じさせる道具である。しかし、感情や身長、記憶……など、その後遺症を考えるとやはり何の努力もせずに幸せになるには危険が伴うと痛感させられる。

 今回の『ドラえもん』の教訓エピソードを活かし、幸せなアイテムを用いる際には、ほどほどの付き合い方を模索していきたいものである。

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