
2024年11月14日に発売されたHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(スクウェア・エニックス)では、主人公である勇者の父「オルテガ」関連のエピソードやイベントが多数追加され、息子が父の冒険の足跡をたどるストーリーも描かれた。
『ドラクエ3』屈指の名場面といえば、ついに主人公が父・オルテガに追いつくシーンだろう。志半ばで使命をまっとうできなかった父の思いは子へと受け継がれ、オルテガの最期を看取る悲しくも熱いシーンとなっている。
こうした別れの場面は、重厚なストーリーに定評のあるドラクエ作品の見せ場でもある。これまでのシリーズで描かれてきた、あまりに印象的だった別れのシーンをあらためて振り返っていきたい。
※本記事は『ドラクエ4』『ドラクエ5』『ドラクエ11』の核心部分の内容を含みます。
■頼もしかった父との最期の別れ
『ドラクエ』シリーズにおいて、オルテガと並ぶ有名な「父親」といえば、『ドラクエ5』の「パパス」ではないだろうか。冒頭、スライムにも苦戦する主人公の前にさっそうと現れ、瞬くうちにモンスターを斬り伏せる頼もしい背中が印象に残っている人も多いだろう。そんな父・パパスと主人公の別れのシーンは、印象深い描かれ方をしている。
物語は進むと、パパスは「ラインハット王国」のヘンリー王子のお守り役として招かれるが、そのヘンリー王子が何者かに誘拐されてしまう。すぐさまヘンリー王子を追いかけ、「古代の遺跡」の牢屋にとらわれていた王子を救出する。
これにて一件落着かと思いきや、古代の遺跡の出口でボスである「ゲマ」と戦闘に突入。パパスは、ゲマの手下であるジャミ、ゴンズを圧倒的な強さで退ける。
しかし、ゲマはパパスの息子である主人公を人質にとり、その喉元に死神のカマを突きつけると、パパスは手出しできなくなってしまう。再度戦闘に突入するが、我が子を人質に取られたパパスは、ただジッと耐えることしかできないのだ。
この場面、とくにプレイステーション2版では、ジャミとゴンズに無抵抗で殴られ続ける父の姿が描写され、物悲しいBGMも相まってとても見るに堪えない……。
そして瀕死のパパスは我が子の名を呼びかけ、母親がまだ生きていることを伝える。しかし、ゲマが繰り出した業火は容赦なくパパスを飲み込み、「ぬわーーっっ!!」という断末魔を残して、跡形もなく消え去るのだった。
あれほど強かったパパスの壮絶な最期に、主人公とプレイヤーは己の非力さを噛みしめるしかない。このつらいシーンを経て、憎きゲマへのリベンジを誓った人も多かったのではないだろうか。
■幼なじみとの突然の別れ
『ドラクエ』シリーズにおける主人公の旅立ちの場面はさまざまだが、とくにショッキングな旅立ちが描かれたのは『ドラクエ4』だろう。
同作はオムニバス形式で物語が展開され、各章でパーティメンバーの活躍が描かれたのちに主人公の章となり、勇者のもとに仲間たちが集まってくるストーリーとなっている。
その第5章「導かれし者たち」は、主人公の暮らす「山奥の村」から始まる。穏やかな村で主人公は、幼なじみの「シンシア」という少女や、村人たちと平和な日常をすごしていた。
しかしある日、村は突然魔物の襲撃を受ける。実はこの村は勇者である主人公を匿い、一人前の勇者に育てるという使命を帯びていたが、その存在を魔王軍に知られてしまったのだ。
村人たちは主人公を地下室に隠して逃げ延びるよう伝え、いつか強くなって邪悪な者を倒してほしいという願いを託すと、自らの命をかけて抵抗を開始する。
さらに地下室から動けない主人公のもとに、幼なじみの少女・シンシアが現れる。シンシアは「大丈夫。あなたを殺させはしないわ」と伝えると、姿かたちを他人に似せる「モシャス」の呪文を唱え、主人公そっくりの姿になると、「さようなら」と告げて魔物たちの前に飛び出していった。
やがて地下室の外から「勇者をしとめました!」と報告する魔物の声が聞こえてくる。こうして魔王軍は去り、主人公は生き延びたが、地下室を出た主人公の前に広がるのは、破壊しつくされた村の姿。村人の亡骸すら残っていない悲惨な有り様だった。
ちなみに、いつもシンシアが寝転がっていた花畑のあった場所を調べると、「はねぼうし」が落ちている。これが唯一残された幼なじみの形見であり、主人公の冒険の始まりは悲しみと切なさに包まれていた。