■自然あふれるロケ地と日本の風景
特撮作品のロケ地といえば、採石所、工場跡地、廃墟、ダム、地下水路など、人の手の入った寂れた場所が定番ではあるが、本作は自然豊かな場所が多く選ばれている。
第1話でヒビキと明日夢が偶然乗り合わせた船の行き先は、樹齢数千年を超える杉や原生林を有する「屋久島」である。初回から2話に渡って屋久島の自然を舞台に戦いが繰り広げられ、他にもオープニング映像やおもちゃのCM、写真集などのロケ地でもあることから、本作の「聖地」として有名だ。
本作の公式サイト の用語辞典には、奥多摩、奥久慈、足尾山、武甲山、雲取山など、山に関連するロケ地の名前が多数あり、日本の自然を重んじる姿勢をあらためて感じさせられる。
妖怪由来の魔化魍と鬼という組み合わせは、日本人の信仰と畏怖の対象である「山」と相性が良かったのかもしれない。
一方、日常パートでは、葛飾柴又、浅草、荒川河川敷を中心に、東京下町の風景が楽しめるのも特徴だ。
余談ではあるが、鬼となったヒビキのビジュアルは、ふんどしを着け、たすきをかけた、日本の祭などで見かける姿を連想させる。猛士のメンバーが使役する式神(ディスクアニマル)にも、「茜鷹(アカネタカ)」、「瑠璃狼(ルリオオカミ)」、「青磁蛙(セイジガエル)」といった和のテイストが取り入れられ、随所に日本古来の趣きが感じられた。
そして忘れてはならないのは、日々自分の仕事をこなす立派な大人たちの姿がさり気なく描かれている点だ。
なかでも、音撃戦士が所属する組織「猛士 (たけし)」と、「甘味処 たちばな」のオーナーを兼任する立花勢地郎 (いちろう)は、派手さはないがとても重要な役割を担った。
立花役を演じたのは、2025年1月に亡くなられた名優・下條アトムさん。撮影時、立花の年齢に近かった下条さんの演技は、つねに笑みを絶やさない穏やかなたたずまいで、鬼戦士だけでなく視聴者にとっての癒しでもあった。
そして「おやっさん」としてヒビキの未熟な部分を諭す場面は、自分のことのように胸に染みたものだ。
今思えば『仮面ライダー響鬼』は、明日夢やヒビキといった登場人物だけでなく、視聴者も一緒に成長させてくれた作品だったのかもしれない。