■命を賭して国の歪んだ常識を暴いた母親「プレーテッドシティの魔女」

 コミックス6巻「プレーテッドシティの魔女」には、鉄郎が母親を失ったシーンとよく似た場面が登場する。

 すべてが金色でできた光る星「プレーテッド」に降りた鉄郎とメーテルだが、滞在先のホテルでメーテルのトランクが奪われてしまう。犯人はホイールロックという少年だった。この星は金メッキで体を光らせないと貧乏だと差別されるため、メッキ代欲しさにトランクを奪ったのだ。

 ホイールロックを追いかけた鉄郎は、彼とともに政府の反乱分子と疑われ下水に逃げ込む。そこにはこの星の習慣に反乱を起こしたロックの母親がおり、政府により射撃され倒れていた。

 “早く逃げなさい、プレーテッド惑星に破滅が近づいています。ホイールロック、男なら…”という言葉を残し、息絶えるロックの母。泣き崩れるロックの姿に、鉄郎もまた涙を流すのであった。

 体中に金メッキを施さないと生きていけない星。そんな悪しき慣習は間違っているとロックの母親は立ち上がったが、最終的に政府によって殺されてしまう。このシーンは鉄郎の母親が機械伯爵の人間狩りによって理不尽に殺されたシーンを彷彿とさせ、鉄郎自身も非常にショックを受けていた。

 不条理に親が殺されてしまう展開は、いつ見ても胸が締め付けられる。とくに“権力によって踏みにじられる命”は、現実世界においてもあってはならないものなのだ。

 

 このように『銀河鉄道999』には、子どもを守るために散った強い母たちが何度も登場する。

 現代の日本では、こうした過酷な運命は少なくなったと信じたい。しかし戦後の食糧難の時代には、親が自らを犠牲にして子どもに食べ物を譲ることも珍しくなかっただろう。

 時代や場所が違えど、親が子を想う気持ちは変わらない。命を懸けてでも守ろうとする姿勢は、いつの時代も変わらない親の姿だろう。

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