「透明海のアルテミス」や「砂の海のロンメル」にも…『銀河鉄道999』に登場する「子どもを守って散った強い母たち」の画像
[Blu-ray]『銀河鉄道999』(東映アニメーション・東映ビデオ)/(C)松本零士・東映アニメーション

 松本零士さんの『銀河鉄道999』は宇宙を舞台にした壮大なストーリーだが、母親と子どもの絆を描いた作品でもある。物語の初回では、主人公・星野鉄郎の母親が機械人間に殺されてしまう。鉄郎はその復讐心から機械の身体を手にすべく、銀河鉄道999号に乗って宇宙への未知なる旅行へ向かうのだ。

 そんな999号での旅先では多くの親子が登場し、鉄郎の母だけでなく、子どもを守るために犠牲になった母親たちがたびたび登場する。彼女たちはいったいどんな想いを持って行動し、散っていったのだろうか……。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■いくつになっても母親の元に返りたい…「透明海のアルテミス」

 コミックス8巻「透明海のアルテミス」は、母を想う余命わずかな娘と、その母である巨大生命体の最期が描かれた切ないストーリーだ。

 あるとき999号は、突如現れた海のような惑星と衝突して沈んでしまう。999号を救うために、鉄道警備局は震動波を発射して惑星を破壊することを決める。しかしその惑星は多くの生命体を生み続ける母なる星だった。

 “子どもたちの母を殺すな”と抵抗する鉄郎。そんななか、一隻の宇宙船が惑星に飛び込み、透明な体の女性が身体を引きずるように降りてくる。

 アルテミスと名乗る彼女は過酷な旅を続けた挙げ句、死ぬために自分を産んでくれた“お母さん”、つまり、この星のもとに帰ってきたという。「私が死んだら星の地面の上に降ろして」と言い、アルテミスは死亡。そして最期は鉄郎たちに見守られ、母なる惑星の中に帰って行った。

 その姿を見た鉄郎は涙を流す。一部始終を見ていた母なる惑星は“私の娘のために涙を流してくれて、私の身を案じてくれてありがとう”、“私は自分の意思では体を動かせない、いつか私の子どもたちが銀河鉄道の邪魔にならない方法を考えてほしい”と伝え、震動波を受けて消滅するのであった。

 母の元に戻ってきたアルテミスは大人の女性だ。それでも“私のお母さん…柔らかくて…あたたかくて…やさしい…お母さん…”と言って亡くなる様子からは、子どもはいくつになっても母親の愛情を求めるものだと再認識させられる。

 また母なる惑星が、鉄郎のことも自分の子どものように受け入れ、999号を救うべく自らを消滅させた行動にも胸が締め付けられる。「人と死に別れるって悲しいね…」とつぶやく鉄郎のセリフからは、母親との別れを経験した者だからこその重みが感じられる。

■子どもと生きるために…命を懸けた行動「砂の海のロンメル」

 コミックス13巻「砂の海のロンメル」も、子どものために母親が命を落とす切ない話だ。

 鉄郎とメーテルが降り立ったのは、何もかもが砂で覆われた「砂漠のキツネ」という名の駅。鉄郎はホテルに滞在している間に、砂の中から現れた謎の女性にトランクごとパスを盗まれ砂に引きずり込まれてしまう。女性は“砂漠のキツネ・ロンメルの部下”を名乗り、メーテルのトランクも奪ってしまった。

 結局鉄郎は、砂の流れに流されるようにしてロンメルの戦闘指揮車に救出される。その後尋問を受け、気を失った鉄郎が目を覚ますと、そこはホテルのベッドの上だった。しかし、ベランダ越しに見えたのは、鉄郎のパスを奪った女性の処刑された姿が……。

 メーテルはその女性の行動を、“2人のパスを使い、大切な人と一緒にこの星を脱出しようとしていたのかも”と推測する。その推測は正しく、999号が飛び立ったあと「かあさん…かあさん…」と呼びながら、夜の砂漠をさまよう1人の子どもの姿があった。

 この母親が鉄郎たちのパスや荷物を奪った行為は犯罪である。しかし過酷な環境のなか、親は何としてでも生き延び、子どもの未来を守ろうとするのだろう。そうした親の愛情はとても強く、時にそれが命を賭ける決断につながるのだ。

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