
尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』の、麦わらの一味の操舵手となった「海侠のジンベエ」は、義理人情を重んじる姿勢が人気のキャラクターだ。彼は「タイヨウの海賊団」「王下七武海」「ビッグ・マム傘下」……と、数々の組織を渡り歩いてきた一面も持つ。
そのため一部の読者からは、七武海の脱退やビッグ・マム傘下からの離脱などについて「組織からすれば裏切り者なのでは……?」という声も上がっていた。波乱万丈な人生ゆえに、さまざまな意見が上がることも少なくないジンベイ。今回は、義理堅さゆえに苦労も絶えない彼の経歴を振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■リュウグウ王国護衛兵からタイヨウの海賊団へ
ジンベエは魚人島出身のジンベエザメの魚人で、オトヒメが王妃として健在だった時には、リュウグウ王国のネプチューン軍に所属する兵士だった。彼に最初の転機が訪れるのは、彼の兄貴分で冒険家のフィッシャー・タイガーが「タイヨウの海賊団」を結成したことだ。
タイヨウの海賊団はジンベエやアーロンなど数多くの魚人が所属する大海賊団となる。ジンベエはその実力からタイガーに次ぐ存在と見なされ、活動開始から時を待たずに7600万ベリーの懸賞金が掛けられるほどであった。
タイヨウ海賊団に加入したばかりの頃は、人間に対していい感情は持っていなかったジンベエ。実際、人間との融和を唱えるオトヒメの志には、「無駄じゃ」「 歴史が答えを出しとる…」と批判的な態度を取っていた。
やがて、タイガーが人間の裏切りによって死亡すると、ジンベエが2代目の船長となる。タイガーは死に際、人間への憎しみを語ると同時に平和を望み、「お前らは島に何も伝えるな!! おれ達に起きた“悲劇”を!! 人間たちへの“怒り”を!!!」と負の連鎖を断ち切ることを望み、その姿はジンベエの生き方に大きな影響を与えた。
■七武海への加入と脱退
しばらくすると、ジンベエはその実力と魚人への影響力から、王下七武海への加入を打診される。海賊団の仲間の中には反対する者もいたが、ジンベエはその話に乗ると決断した。これがきっかけでアーロンやマクロなどが離脱し、タイヨウの海賊団は分裂を余儀なくされる。
ジンベエの行動は、「政府の“人間“の……!!! “狗”になるんだなァ!!!」とアーロンが嘆いているように、人間との融和を求めない魚人にとっては裏切りにも思えるものだったようだ。その裏には魚人族の地位向上を目指す意味合いがあっただけに、一部の仲間たちに理解されなかったのはなんとも悲しい状況だった。
これ以降ジンベエは穏健派としての行動をとるようになり、五老星も「種族間の和解を象徴していた」と語っていることからも、その重要性が分かる。ジンベエはタイガーやオトヒメの強い想いを引き継ぐ生き方を選択するようになったのだ。
そんなジンベエだったが、恩人である白ひげと海軍の衝突を避けられないと知ると、世界政府と対立。大監獄インペルダウンに幽閉され、そこでルフィと出会う。その後、インペルダウン脱獄、マリンフォード頂上戦争参戦、七武海脱退……と大事件を起こしまくった。ルフィにとっては、元七武海が味方でいてくれるのは、本当に頼もしい状況だっただろう。
そして、2年後には追われる身ゆえに魚人島から少し離れた場所に潜伏しながら、ルフィとの再会を心待ちにしていたようだ。政府にとってはある意味では裏切り者だが、白ひげへの恩義やエースとの友情を優先させて、自分の立場を捨てた。こうした漢気こそが、ジンベエを好きになる人が続出した理由だろう。
■魚人島のためにビッグ・マムの傘下へ
白ひげがいなくなった影響は、魚人島にも及ぶと推測された。そこでジンベエが考えたのは、四皇のひとりビッグ・マムの傘下に入ることだった。ジンベエも海賊として高い知名度があるにもかかわらず、別の大海賊の傘下に入る選択を取ったのは魚人島の安全のためだ。
白ひげの影響力がなくなると、魚人島は無法地帯になる可能性もある。だからこそ、ジンベエは白ひげに代わる存在を探したのである。
そして彼が選んだのが、「菓子の為に“国”さえ攻め落とす怪物」と言われるほど凶暴なビッグ・マム。お菓子さえ供給し続ければ、そのナワバリとしてある程度の安全は保証されるからだ。実際に、「“新世界”では「四皇」の誰かの傘下に下る事が 仲間達の命を守る最良の手段」とジンベエ自身が語っている。
ネプチューンには「その行為 魚人島の為に思えるが……」とその思惑をばっちり指摘されていた。これも「なァに… 偶然ですわい」と否定していたが、その指摘が正しかったのは確実だろう。自分の漢気は決して認めないところもとにかくカッコいい。
しかしルフィとの再会をきっかけに、そのビッグ・マムの傘下をも抜ける時が来る。それは、一歩間違えば命を失ってもおかしくない危険な判断だ。