
スポーツ漫画では主人公を成長させるため、「“負け”試合」がていねいに描かれることもある。大逆転勝利を期待させる熱い展開にも胸躍るが、僅差で敗れてしまった試合ほど読者側にも心に響くものがあった。
そこで今回は、名作スポーツ漫画で主人公が頑張ったけど負けてしまった「“負け”名試合」を紹介していこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■翼がまさかの敗退?日向とのライバル関係を決定づけた『キャプテン翼』南葛SCvs明和FC
高橋陽一氏の『キャプテン翼』では、サッカーの天才児で明るく元気な主人公・大空翼が、どんなに劣勢となっても最後は逆転シュートを決めてくれる。
小学生編では南葛SCのキャプテンを務め、ともに「黄金(ゴールデン)コンビ」を形成する岬太郎や天才ゴールキーパーの若林源三がチームメイトとなっている。
しかし、原作において翼の唯一の負け試合となったのが、全日本少年サッカー大会の予選リーグでの、日向小次郎率いる明和FCとの一戦だった。
家族のために小学生ながらアルバイトをして家計を助ける日向は、闘志溢れるプレーで南葛SCを苦しめる。ケガで欠場している若林の代わりにゴールを守る森崎有三に対し、顔面を狙って強烈なシュートを放って恐怖心を植え付けるなどえげつない。こんな相手、絶対戦いたくないと思ってしまったものである。
もちろん、翼も負けておらず、個人技でも日向を上回る活躍を見せており、試合終了間際には隙を見せた日向からボールを奪うのに成功。
ただ、最後はこぼれ球に反応した沢田タケシに逆転シュートを決められ、6対7で敗北してしまった。この一戦は翼と日向のライバル関係を決定づけた試合でもあり、読者としても日向のスゴさが浮き彫りとなった名試合といえた。
ちなみにこの試合、「ボールはともだち こわくないよ」という名言が飛び出しており、日向のシュートをわざと顔面で受けながら「ぜんぜんへいきでしょ」と笑った翼に森崎の恐怖心が和らぐというシーンがある。
サッカーを心から楽しもうとする天才肌の主人公と、ハングリー精神を持ちながら闘争心の塊で挑むライバル。対極な両者の関係にこの試合以降も夢中にさせてもらった。
■帝王・牧の凄さが身に染みた『SLAM DUNK』湘北vs海南大附属戦
井上雄彦氏のバスケットボール漫画『SLAM DUNK』では、インターハイ神奈川県予選の決勝リーグで、主人公・桜木花道が所属する湘北高校が王者・海南大附属高校と対戦して惜敗している。
前半は大黒柱のキャプテン・赤木剛憲が足首をケガして途中交代し、湘北に暗雲が立ち込めてしまう。しかし、1年生の流川楓が覚醒して王者・海南を翻弄し、桜木のリバウンドの活躍もあって同点で前半を終えた。
テーピングで足首を固めた赤木も後半から復活し、湘北も万全かと思いきや、海南は3Pシュートの達人である神宗一郎の投入で突き放しにかかる。さらに、本気を出した牧紳一のフィジカルを活かしてファウルを誘う3Pプレイ(フリースロー付き)で窮地に陥ってしまう。
「帝王」と称される牧を起点とした攻撃に追いやられる湘北。そこで安西監督は牧のペネトレイトに合わせて4人がかりでマークするという作戦を実行する。
神の3Pは桜木が密着するフェイスガードで防ぎ、他のプレイヤーからのシュートは落ちるのを“祈るのみ”というから面白い。そんな中、海南はもう一人のシューターである宮益義範を投入するが、安西は宮城リョータにマンマークを付かせるなどもはや総力戦で勝ちにいこうとしていた。
4点差で負けている湘北は、終了間際にゴール前でボールを持った桜木がフェイクで海南センター高砂一馬をかわし、ダンクを成功させて、さらにファウルでフリースローももらえた。まさに本人曰く「天才爆発!!!」といったところだ。
フリースローはわざと外して赤木にとらせ、大逆転を狙おうと三井寿にパスを回して3Pシュートを放つが、わずかにツメの先でブロックされて軌道が逸れてしまう。
それでも桜木がリバウンドを取るのだが、パスミスをして試合終了となった。ここで自分を責めて泣いていた桜木の姿に感動したものである。
そして、この敗戦によって桜木の弱点が露呈し、ゴール下のシュートを習得することとなり、これがその後の湘北の快進撃につながっていくのだ。