■過去作で見る演技のスゴさ

 次は、高橋さんの演技のスゴさを過去作を例に挙げながら順に追って見ていこう。第1期として放送されたのは「富豪村」「くしゃがら」「D.N.A」だが、「富豪村」は1期でも特に見どころが多い。“マナー違反者は自分の大切なものをひとつ失う”という不思議な山での体験を描いたエピソードである。

 そんな「富豪村」で印象的な高橋さんの演技といえば、原作にはない“右腕が完全に機能しなくなるシーン”だ。このとき露伴はマナー違反により、漫画を描くため欠かせない右腕の感覚を失ってしまうのだが、悲鳴をあげずるずると身体を引きずる姿がリアルに苦しそうだった。そして、そんな状態でトウモロコシを「正しいマナー」で食べるよう求められ、それに応じるシーンは原作そのもの。露伴そのもののふてぶてしさや決め台詞が完璧にキマっていて、かなりスカッとした。

 第2期は「ザ・ラン」「背中の正面」「六壁坂」と、どれも見ごたえのある内容ばかりだ。中でも注目したいのが「ザ・ラン」で、走ることに取り憑かれた青年との奇妙な体験を描いたものである。

 ただのランニング勝負が、いつの間にか生死を懸けた勝負になっていくところが見どころの本エピソード。高橋さんはそこで恐怖を感じながらも、好奇心が抑えられないという露伴の葛藤を揺れる声色や表情で表現している。ひょっとしたら自分は殺されるかもしれない……が、相手をもっと知りたい欲求にどうしても勝てない。そんな露伴の危うさが絶妙に伝わってきた。

 第3期は「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」で、「ジャンケン小僧」では「これぞ岸辺露伴だ!」と思わずニンマリしてしまう姿を見せている。

 それが、露伴のわがままで自己中心的な性格が表れた大人げない一面だ。カフェの席を懸けて小学生から挑まれたジャンケン勝負で勝ち、「最高の気分だね」とはしゃいで喜んでいた。しかも相手が小さな子どもであるにもかかわらず、「ザマーミロ!」とまで言い放っていたのが容赦なさすぎる。

 そして「密漁海岸」では、トニオ・トラサルディの店での食事の様子を見事な演技で魅せてくれる。料理を食べた後、肩を掻きむしって大量の垢がボロボロはがれる様を鬼気迫る表情で演じることで、トニオが作った料理の異常さがまざまざと伝わってきた。

 脂汗を浮かべながら顔を歪め、息を荒げながらのたうち回る姿は異様で、そのおかげで恐怖がリアルに伝わってくる。余談にはなるが、ここで泉京香役の飯豊まりえさんが披露する“歯が抜ける演技”もかなり印象的だった。

 こうして振り返るだけでも高橋さんは作中で多彩な表情を見せており、露伴という特殊なキャラを見事に演じ切っていることがわかる。まさにはまり役といったところだろう。

 

 『岸辺露伴は動かない』シリーズは、基本的に演者が少なく場面転換も最小限と、かなりシンプルな作品である。それにもかかわらず視聴者に不思議な恐怖を体験させられるのは、露伴を演じる高橋さんの高い演技力のおかげだろう。

 5月公開予定の「懺悔室」はアニメ化もされている話なので、見比べて視聴するのが楽しみである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3