■妖刀よりもインパクト大なメイクに釘付け? 「ああ!成敗涙あり」

 時代劇といえばやはり刀を使っての殺陣も見どころの一つだが、『暴れん坊将軍』のなかにはそんな“刀”がテーマとなった異色回も存在している。

 それが、初代シリーズである『吉宗評判記 暴れん坊将軍』にて放送された、第146話「ああ!成敗涙あり」だ。

 このエピソードでは妖刀として有名な「村正」が登場し、これに魅入られた男が次々に人を殺めていってしまう。

 剣客・日向一心斉の門弟であり、その娘の恋人である侍・工藤源三郎こそ、この妖刀・村正に翻弄された悲劇の人物である。彼は村正の魔力に憑りつかれ、まずは刀師を殺害。その後も妖刀の魔力に抗うことができず、師匠や町人など多くの人間を殺めていくこととなる。

 特筆すべきは村正を手にし、豹変した若侍・源三郎の強烈なビジュアルだろう。普段は整った顔立ちをした源三郎だが、村正を手にすると髪を乱し、白塗りの顔に黒と赤で目元を染め上げた、なんとも凄まじい出で立ちとなってしまう。

 妖刀の魔力が作用したゆえの変化だろうが、ド派手なメイクを施した源三郎が次々に人を切りつけていく姿は、恐ろしくもあり、どこかシュールだ。

 最終的には吉宗が源三郎と対決することになるのだが、やはりその際も源三郎はこの妖刀メイク姿を披露。青空の下、河原で白塗りの顔のまま刀を振るう源三郎の姿は、とにかく異様だった。

 妖刀という恐ろしい存在に狂わされた一人の侍の悲しい物語……なのだが、そのメイク姿のインパクトが大きすぎるせいか、視聴者の意識が終始かき乱されてしまうなんとも奇抜なエピソードだった。 

 

 時代劇作品の金字塔ともいえる『暴れん坊将軍』シリーズ。吉宗が悪党たちを成敗するいわば王道回だけでなく、なかには一風変わったテイストでファンを驚かせた異色回も多数登場していた。

 今回紹介してきたエピソードは、すい星、悪霊、妖刀……と、いずれもインパクト大なものばかりで、今もなおファンの間で語り草となっているようだ。

 しかし、どんなに奇抜な状況や相手だったとしても、変わることなく大立ち回りを繰り広げる暴れん坊将軍・吉宗の勇姿こそ、本作の最大の見どころだと言えるだろう。

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