不憫?それとも幸せ? 『機動戦士Zガンダム』最高のヒロイン「フォウ・ムラサメ」が迎えた壮絶な最期の画像
VHS『機動戦士ZガンダムII -恋人たち-』(バンダイビジュアル) (C)創通・サンライズ

 テレビアニメ『機動戦士Zガンダム』に登場するヒロインのひとり「フォウ・ムラサメ」。放映時から彼女の人気は圧倒的に高く、アニメ誌の表紙を飾ったり、当時の人気投票で1位をとったりするほどだった。

 フォウというキャラクターに魅力があるのはもちろんだが、強化人間として苦しみながらも戦いに身を投じた哀しい運命に、心を動かされたファンも多かったのではないだろうか。

 そして、彼女が搭乗した漆黒の不気味な巨大モビルアーマー「サイコガンダム」とのアンバランスな組み合わせも印象深い。そこでフォウ・ムラサメとはどのような少女だったのか、あの壮絶な最期に至るまでの経緯をあらためて振り返ってみたい。

■失った記憶に翻弄された悲しき少女

 フォウ・ムラサメの初登場は第17話。ティターンズが保有する超大型輸送機「スードリ」に、黒い巨大な機体が着艦し、そこから降りてきたのが「フォウ・ムラサメ」だった。

 彼女の正体は地球連邦傘下のニュータイプ研究機関「ムラサメ研究所」で調整を受けた強化人間。その研究所の4番目の被験者を意味する「フォウ」の名で呼ばれ、失っていた記憶を蘇らせることを条件に戦いに臨むことになる。

 彼女が何よりも欲した記憶を操作していたのは当のムラサメ研究所であり、それを盾に連邦に出向させられたのだから、あまりにも不憫だ。

■ホンコン・シティでのカミーユとの邂逅

 ホンコン・シティで出会ったカミーユ・ビダンと心を通わせながらも、ふたりは敵として交戦。しかし、その後の再会を機に、ふたりの距離は急速に近づいていく。

 そして夜のビルの屋上でカミーユと口づけを交わしたフォウは、自身の置かれた境遇を打ち明ける。自分の本当の名前ではない「フォウ」という名が嫌いなこと、戦災孤児であり記憶を失っていることなどをカミーユに告げたのである。

 昔の記憶を探しているというフォウに、「思い出なんてこれからいくらでも作れるじゃないか」とカミーユが伝えると、彼女は無言で彼の体に寄り添い、カミーユはそっと抱きしめた。このとき物語のメインヒロインはフォウだと誰もが感じたことだろう。

 しかし、自分の記憶を取り戻すことや、記憶の鍵を握ると信じるサイコガンダムに強い執着を見せるフォウは、カミーユの呼びかけに応えず、再び戦いに身を投じることになる。

 戦いを繰り返しながら、根気強くフォウの説得を試みるカミーユ。やがて彼の想いに感化されたのか、フォウはサイコガンダムを犠牲にしてカミーユが宇宙に戻る手助けをした。その際にスードリの爆発に巻き込まれたかと思ったが、再び戦場で相まみえることになるのだ。

■薄幸な少女との本当の別れ

 キリマンジャロ基地攻略戦の際に、カミーユはフォウと再会を果たす。しかし、強化人間として再調整を施されたフォウの心は、さらに不安定な状態になっていた。

 フォウはサイコガンダムに導かれるように戦いに臨むが、カミーユの懸命の呼びかけによって正気を取り戻す。ようやくふたりが報われるかと思った瞬間、ジェリド・メサの乗る「バイアラン」の攻撃から、フォウはカミーユをかばう。これによりフォウは、その薄幸な生涯を終えることとなる。

 サイコガンダムの機外に投げ出されたフォウ。あれだけ過去の記憶を取り戻すことにこだわっていたフォウが命の尽きる間際に取り戻したのは、カミーユと過ごしたささやかな記憶だったことに涙した視聴者は多いことだろう。

 フォウは生い立ちや本当の名前、家族のことなどはいっさい思い出すことなく散った。カミーユに「これでわたしはいつでもあなたに会えるわ」「本当にあなたの中へ入ることができるんだから」と告げ、死の寸前にカミーユの腕に抱きかかえられながら、かすかにほほ笑みを浮かべたようにも見えた。

 短い生涯を終えたフォウの最期が幸せだったのかは分からない。ただカミーユと過ごした、わずかな時間だけは彼女にとって幸せなものであったと願いたい。

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