アニメ『機動戦士ガンダム』の放映から45年が経つが、令和になった現在も新作が作られ、多くのファンから支持されているガンダムシリーズ。その物語を彩るひとつの要素に、心に残る主題歌の数々が挙げられる。
オープニングやエンディングに素晴らしい曲が採用されているのはいうまでもないが、劇中の「ここぞ!」という場面で流れる「挿入歌」にも名曲が多いことで知られている。そんな挿入歌のなかでも歌とアニメ描写がマッチし、とくに流れるタイミングが絶妙に思えた珠玉の挿入歌を振り返っていこう。
■戦場の哀しみを歌った、忘れられない名曲
まず紹介したいのは、劇場版『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』の劇中で使われた挿入歌の「哀 戦士」だ。
同曲は、ガンダムの生みの親で総監督である富野由悠季氏が「井荻麟」の名義で作詞を担当し、富野氏とは大学の同級生だった歌手の故・井上大輔氏が歌と作曲を手がけた、ガンダム史に残る名曲だ。
この「哀 戦士」という挿入歌は劇中の後半、地球連邦軍の総司令部がある南米「ジャブロー基地」に、ジオン公国軍が侵攻作戦を開始するタイミングでイントロが流れ始める。
ジオンのガウ攻撃空母から、多数のモビルスーツがジャブロー基地のあるジャングルへと降下。しかし、苛烈な対空砲火にさらされ、次々と僚機が撃墜されていくなか、あるジオン兵が「お、降りられるのかよ…!」とつぶやく場面もここに描かれている。
まさに「哀 戦士」という曲名通り、戦う男たちの悲哀が描写された象徴的なシーンで流れたのである。
さらにカットは地球連邦サイドにも切り替わり、ホワイトベース隊の「カイ・シデン」やジャブローの技術士官「ウッディ大尉」の姿も映る。
この両名は直前の戦いで愛する女性を失ったばかりで、このふたりもまた「哀 戦士」の切ない歌詞に重なる。
なにより挿入歌の流れ出すタイミングが絶妙で、その切ない曲調と歌詞は見事なまでにアニメ描写とマッチしていた。
■損傷した母艦の壮絶な最期に流れた愛の歌
続いて紹介したいのはアニメ『機動戦士Vガンダム』の最終盤で流れた、岩崎元是氏が歌う挿入歌「いくつもの愛をかさねて」だ。この曲も富野由悠季監督が井荻麟の名義で作詞を担当している。同曲の歌詞の受け取り方はさまざまだが、筆者はこの歌詞から「愛する人を失っても生きていく人たちの強さ」を感じとった。
劇中、この挿入歌は第50話、第51話で使われているが、とくに印象的だったのは第50話「憎しみが呼ぶ対決」のほうだろう。
ザンスカール帝国が建造した巨大移動要塞「エンジェル・ハイロゥ」を巡る攻防のなか、主人公「ウッソ・エヴィン」が所属するリガ・ミリティアの母艦「リーンホースJr.」は大きなダメージを受けてしまう。
もはや撃沈は時間の問題という状況で、数少ない連邦軍の協力者であったゴメス艦長をはじめ、ずっとお飾りだった指導者の影武者ジン・ジャハナム、そして年老いた乗組員たちは、若者たちを退艦させ、敵主力艦隊への特攻をしかけることを決心する。
そのときに流れ出すのが、挿入歌の「いくつもの愛をかさねて」だ。
もとをたどれば『Vガンダム』で描かれた戦争自体、年老いた彼らの世代がはじめた戦いであり、最年長の「ロメロ・マラバル」はこの最後の戦いを「長生きしすぎたバチが当たった」と表現している。
その命を使って、最後に戦いに巻き込まれた若い世代に責任をとろうとする老兵たちの姿と、残された若者たちの心情に、名曲「いくつもの愛をかさねて」の歌詞が重なった。
そしてリーンホースJr.は敵旗艦に激突し、周囲にいた敵主力艦隊を巻き込んで大爆発を起こすと、光に消えていくのだった……。