■強いメッセージ性、物語を締めくくる言葉も藍染が…

 藍染の言葉はときに物事の本質をとらえ、ゆえに強いメッセージ性を持っている。

 たとえば、コミックス46巻。自身が死神代行になったこと、さらには死神として強く成長してきたことの全てが、藍染によって仕組まれたものだったと聞かされた一護。その真実に愕然とし「嘘だ」と否定するしかできない彼に対し、藍染は「不都合な"事実"こそが悉(ことごと)く真実なのだ」と言い、さらに絶望の淵へと叩き落とした。

 この藍染の言葉は、私たち現実世界にも当てはまるように思える。自分にとって不都合な事実に目を背けたくなることは、誰にでもあるだろう。そんなときに響くこの言葉……否が応でも強いメッセージ性を感じてしまう。

 このような藍染のキャラクター性ゆえだろうか。実は、作者である久保氏は『BLEACH』本編の物語を、藍染の言葉で締めくくらせている。

 コミックス74巻最終回、一護に敗れたユーハバッハに対して、無間の牢獄で拘束された藍染は「人はただ生きるだけでも歩み続けるが それは恐怖を退けて歩み続ける事とはまるで違う だから 人はその歩みに特別な名前をつけるのだ “勇気”と」と語っている。

 これはユーハバッハ、さらには自身の野望をも阻止した一護をある種認める言葉であり、また『BLEACH』という物語を締めくくるに相応しい言葉であった。

 

 今回は『BLEACH』藍染惣右介の言葉は、なぜ人々の心に刺さるのか考察してきた。彼のセリフはすべて、その圧倒的なキャラクター性に裏打ちされており、口調は至って静かでありながら、ほかにない迫力を持っていた。

 またそのセリフの多くが、現実社会にも当てはまるような物事の核心を突いており、ゆえに我々読者の心にも深く刺さるものなのだろう。

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