連載開始から38年! 荒ぶる少年少女の生き方から人生観も学んだ…紡木たく『ホットロード』の魅力を語るの画像
映画『ホットロード』ポスター(C)松竹

 バブル真っ只中の時代、社会問題として注目されていたのが少年たちによる「暴走族」だ。その時代背景を受け、少年漫画などでも多く登場していた暴走族だが、そんな10代の彼らの揺れ動く感性を丁寧に救い上げ描いた少女漫画もある。それが、紡木たくさんによる『ホットロード』だ。

 『ホットロード』は『別冊マーガレット』(集英社)にて、1986年1月号から87年5月号まで掲載された作品だ。作品が誕生してすでに35年以上もの年月が経つが、今読み返してもその世界観に没入できる偉大な名作である。

 今回はそんな『ホットロード』がどのような作品だったかを振り返ってみよう。

■不良はカッコいいものじゃない…暴走族の背景をリアルに取り上げた作品

 『ホットロード』は、10代の非行に走る若者をテーマにした作品だ。主人公は14歳の女子中学生・宮市和希、そして和希が想いを寄せる不良少年・春山洋志。洋志は、のちに暴走族グループ「NIGHTS」のリーダーとなる。

 本作は、母親との関係に悩む和希が春山と出会い、それぞれ成長しながら恋愛模様も繰り広げていくストーリーだ。

 先述したように、80年代は暴走族の交通事故や暴力事件などが多発し、社会問題となっていた。しかしその一方で“不良はカッコいい”といった価値観もあり、テレビドラマなどでは主人公の不良たちが敵対する悪者を成敗するようなヒーロー作品も登場していた。つまり、実在の暴走族とはかなり乖離して描かれている作品が多かったように思う。

 しかし『ホットロード』では、和希が暴走族に足を踏み入れていく様子が丁寧に描かれており、複雑な家庭環境や学校でうまくいかない様子や、さらに暴走族に入っても決して楽しいだけではない実情がなんともリアルだ。

 作中で和希は男性から暴行を受けそうになるなど危険な目にも遭ったりもするし、洋志は自身の生活のため、日々ガソリンスタンドで必死に働いていたりもする。

 『ホットロード』は「不良=カッコいい」といった単純な方程式ではなく、非行に走る少年少女の苦労や葛藤を描いているのが印象的だった。

■リアリティのある美しい絵、和希と母親の関係にも目が離せない

 本作の魅力の一つとして挙げられるのが、紡木さんの描く独特な美しい絵だ。

 80年代の少女漫画といえば、キラキラとした大きな瞳にフリルのついた洋服を着ているヒロインが登場する作品も多かった。しかし紡木さんの描くキャラクターは現実にも存在するような女の子であり、それが逆に読者にインパクトを残した。個人的には70年代に活躍した画家・いわさきちひろさんの作品を彷彿とさせるような柔らかなキャラクターの描き方が特徴的であったように思う。

 また、和希と彼女をひとりで育てた若き母親との関係からも目が離せない。

 和希は2歳のときに父親が亡くなり、それ以来ずっと母親と暮らしている。しかし母は高校時代の同級生である鈴木と長く不倫関係にあり、娘の非行に対して見て見ぬふりをすることもあった。そのような家庭環境で育った和希は常に孤独を感じており、母親と対立するシーンも多かった。

 こうした複雑な母娘の関係は現在でも見られるものだろう。『ホットロード』を今読み返してみると、シングルマザーの苦悩や母娘との関係について考えさせられてしまう。またこの2人の関係は、物語終盤に劇的な展開を見せるのにも注目だ。

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