■古代中国に古事記、ことわざまで操る礼儀正しい悪役

 蟹座の黄金聖闘士デスマスクは非道なキャラとして知られているが、意外にも老師に対する言葉遣いは丁寧で、何より“うんちく”に長けた人物である。

 五老峰で紫龍と対峙した際には、「井の中の蛙」「キジもなかずばうたれまい」といった“ことわざ”をスマートに使いこなしている。それだけに巨蟹宮での残念っぷりには驚かされた。

 そんなデスマスクといえば、蟹座由来のうんちくトークが目立った印象がある。必殺技「積尸気(せきしき)冥界波」を放つ際には、蟹座の散開星団プレセペのことを、古代中国では「積尸気(せきしき ※積み重ねた死体から出る鬼火の燐光)」と呼び、「プレセペは地上の霊魂が天へのぼる穴なのだ」と丁寧に紫龍に教えていた。

 そのうえ、自らも積尸気へと赴くと、冥界の入り口「黄泉比良坂」がどれほど恐ろしい場所なのか、紫龍に念を押す親切ぶりである。

 その「黄泉比良坂」とは、日本の古事記や神話などに登場する場所で、生者が暮らす現世と、死者の住む黄泉の境界を指す。亡くなったイザナミを迎えに行ったイザナギが、ふり返ってはいけないという約束を破った場所でもある。

 どうやらデスマスクという悪役は、アジア文化にかなり造詣が深い“イタリア男”なのかもしれない。

■四文字熟語の宝庫! シャカが説く「ありがたい言葉」

 仏陀の生まれ変わりと称され、「最も神に近い男」こと乙女座のシャカ。彼は効果不明な技をいくつも持っているのだが、仏教に関する技名がとにかく多い。

 まず、秘儀だと語った「転法輪印」は、「仏陀の教説を転じて迷いを破砕する」印を結び、自分の小宇宙(コスモ)を増大させる効果がある。

 続いて処女宮で一輝に放った「六道輪廻」のシーンでは、仏教の教義に出てくる地獄界や餓鬼界など、6つの世界がどのような場所なのかを絵と文章で、読者にも分かりやすく解説してくれた。

 また、シャカは「西院の河原(賽の河原)」について「幼くしてなくなった子どもが親をこいしがり さまよい 石をつむ場所だ」と説明する場面もある。

 このように『星矢』はアツい物語と魅力的なキャラたちが読者を魅了するだけでなく、いろんなシーンでさまざまな情報を教えてくれた作品でもある。好きな漫画をきっかけに身についた知識というのは、案外忘れないもの。いまだに覚えているものも多いのではないだろうか。

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