幽霊、都市伝説、妖怪……と、昨今ではホラー作品にもさまざまなジャンルがあるものだ。なかには、肉体の変形や変容を描くことで観客に恐怖を植え付ける「ボディホラー」というジャンルがある。これを得意とする漫画家といえば、数々の名作ホラーを生み出した伊藤潤二氏だ。
今回はホラー漫画界の巨匠が手掛ける、ボディホラーの魅力について詳しく見ていこう。
■変形する肉体が極上の恐怖を生み出す「ボディホラー」
「ボディホラー」は人間の“肉体”が異様な姿に変形していく様を見せることで、見る者に恐怖をもたらすホラーのサブジャンルだ。
たとえば事故によって体が破壊され欠損したり、本来ならばありえない角度に腕や足が曲がったりなど、人間の体の部位を変形させることで見ている者に痛みやおぞましさを想像させる。
また、ときには現実世界ではありえないような、とんでもない形で肉体を変形させるケースもある。体が伸びたり、湾曲、肥大化、増殖するなど、フィクションだからこそ可能な表現も、このボディホラーに該当する。
肉体の変形により視覚的な恐怖や痛みを想像させ、独特の嫌悪感を植え付けるボディホラー。このジャンルをいち早く漫画作品に取り入れた第一人者が、先述した漫画家・伊藤潤二氏なのだ。
■怪しくも美しい世界観が見る者を魅了する…伊藤潤二ワールドの数々
伊藤氏といえば日本を代表するホラー漫画家の一人で、『富江』、『首吊り気球』、『双一』シリーズといった数々の名作ホラー作品を世に送り出してきた。
伊藤氏は劇画調の作風が特徴で、人物や怪異の造詣はもちろんのこと、物語の世界観を緻密に描いている。これにより作中の不穏な空気や独特の緊張感、フィクションのなかにのみ存在する感覚が如実に伝わってくるのだ。
おぞましくグロテスクな描写をリアルに描く一方、登場するキャラクターたちを繊細なタッチで描いているのも伊藤潤二作品の魅力の一つだろう。とくに女性キャラは独特の妖艶な雰囲気を身に纏っており、なかには怪物でありながら読者を惹きつける人気キャラも登場している。
また、ときにはギャグを交えたコミカルな展開が差し込まれていたりと、独特の緩急によって読者を揺さぶるスタイルも作品の持ち味だ。
ファンを虜にし続けるストーリー展開はもちろん、圧倒的な画力があってこそ、荒唐無稽でありながらもリアリティ溢れる“ボディホラー”の情景を描くことができるのだろう。