■人生で一番長く一番大切な3週間『STEINS;GATE』

 山の夏、海の夏と続き、「5pb.(現:MAGES.)」によるゲームを原作としたアニメ『STEINS;GATE』シリーズの舞台は秋葉原だ。雑多な街並みと、うるさいほどの蝉の声が、都会の夏の気だるい日常を印象づける。

 物語は、秋葉原を拠点に活動する個人サークル「未来ガジェット研究所」のメンバーたちの夏休みの出来事を描いている。彼らは偶然過去にメールを送る技術を発見し、過去改変を繰り返すことによって、悲劇的な未来が待ち受ける世界線へと移動してしまう。

 主人公・岡部倫太郎は気の遠くなるほどの回数タイムリープを繰り返し、そのたびに救いのない悲劇と直面しながらも、仲間のために奮闘する。しかし移動した先の世界線でも新たな惨劇が待ち受けることを知り、さらに孤独で長い挑戦を続けることになるのだった。

 最終話、岡部は過去の自分に「頑張れよ。これから始まるのは、人生で一番長く、一番大切な3週間だ」と告げる。この時点の岡部がやっと終えた夏を、過去の岡部はこれから始めるのだ。果てしなく続く夏と、引き伸ばされる時間のなかで失われるもの。その対比が、深い哀愁と言いようのない気怠さを与える。

■夏とタイムリープの親和性

 子どものころ、まるで永遠に続くかと思えた夏休み。しかしそれもやがて終わりを迎え、大人になった今では、一瞬のきらめきとして思い出の片隅に残るのみ。

 時間の流れとは儚く、雄大で、不可逆なものだ。この儚い時間をタイムリープによって繰り返すことは、まるで夏の一瞬を永遠に閉じ込めたかのような感覚を与える。そして、そのなかで失われるものと変わらないものを再確認することで、私たちは今一度、時間や命の儚さを知る。

 このように「夏×タイムリープ」という組み合わせは、夏という季節が持つ一瞬のきらめきを際立たせることによって、物語に深い感傷をもたらす。そして繰り返される夏の中で、時間が止まったかのような感覚と、その裏に潜む変化や喪失が、見る者の心に深く響くのだろう。

 

 酷暑続きの近年の夏では、情緒を感じる余裕などないかもしれない。それでも多くの人が夏という季節に連想するのは、“あの頃の夏”の情景ではないかと思う。そして、こうして感傷的に昔の夏を振り返ってしまうのもまた、夏のエモさがなせる業かもしれない。

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