■匂わせ展開もあったのに…『デジモンアドベンチャー』武之内空

 1999年から放送され子どもたちを魅了したアニメ『デジモンアドベンチャー』。「デジタルワールド」での戦いに巻き込まれた少年少女たちの冒険には、胸を躍らせたものだった。本作は冒険モノとしてだけでなく、子どもたちの群像劇としても楽しめる作品だ。

 主人公の八神太一をめぐっては、同じくデジタルワールドで冒険した武之内空との関係性も見どころだった。それをあらわしているのが劇場版第2弾『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』だ。

 この作品ではテレビアニメから半年後のストーリーが描かれ、太一が空を怒らせてしまっているところからストーリーが始まる。太一は「空へ。こないだは悪かった。キゲン直せよ。」とメールを送ったのだが、すぐさま受信拒否のメッセージが。それと時を同じくして、世界では異変が起こり始めていた……。

 注目すべきはストーリーの最終盤だ。インターネットの危機を太一が解決した後、空にメールが届く。間違ってハートマークも付けてしまった太一のメールを見て、空は「太一のバーカ」とつぶやくのだ。これは、ふたりの関係性が動いていくのではという期待させられるシーンだった。

 しかし、テレビアニメ第2シリーズである『デジモンアドベンチャー02』38話では、まさかの展開が描かれる。なんと空が、太一の盟友であり、ともにデジタルワールドで冒険したヤマトに思いを寄せていることが判明するのだ。最終話では二人は結婚していて、幸せな家庭を築いている。てっきり太一とくっつくと思っていた筆者は、当時テレビの前でポカンとしたものだった。

 一体、映画での“太一と空がいい雰囲気になるのでは”と感じさせるやり取りは何だったのかと突っ込みたくなる展開であった。ファンの間でも、太一と空、ヤマトと空のコンビでどちらが好きだったかは、今でも盛り上がる定番の話題だろう。

■思わず切ない気持ちに…『僕だけがいない街』雛月加代

 三部けい氏が描いた『僕だけがいない街』は、ミステリアスな物語と胸を締め付けられる展開が魅力の物語。主人公・藤沼悟が「リバイバル(再上映)」という特殊な能力でタイムリープをし、過去の殺人事件を阻止しようと奮闘する姿が描かれる。

 悟は1988年にタイムリープし、殺人事件の阻止に挑む。その時に死ぬはずだったのが当時の悟の同級生の雛月加代だ。彼女は母親とその恋人から虐待を受け、クラスでも寡黙な少女として避けられていた。

 悟は彼女を救うために積極的に関わりを持ち、雛月も心を開いていった。最終的に、二度の再上映によって雛月は救われたものの、悟は昏睡状態となってそのまま15年の時が流れてしまう。

 その間、病院に通い続けたのが雛月だ。こうした献身的な姿から、悟が目を覚ましてから雛月と結ばれる結末を予想した人も多かったはずだ。しかし、悟の母親が雛月を想って何も言わず悟を転院させたのをきっかけに、彼女は前に進むことを決意する。

 雛月にとって悟は間違いなく、人生を大きく変えてもらった相手だ。しかし、最終的に雛月はアジト仲間の一人である杉田広美と結婚し、彼とのあいだに息子を授かった。

 雛月の献身的な姿や悟の命を賭けたリバイバルなどを考えると、雛月がこの選択を選んだのには複雑な気持ちになってしまう。とはいえ、こうした一筋縄ではいかない感情を揺さぶられるようなストーリーこそ、本作の魅力といってもいいだろう。

 

 主人公とヒロインが結ばれなかったケースは、ファンの間でも話題になる事が多い。メインヒロインが誰と結ばれるのか、またどの時点でその相手を選んだのかにも注目すると、作品の新たな魅力を発見できるかもしれない。

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