90年代に『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された、井上雄彦さんの『SLAM DUNK』。今でも色褪せることがない名作バスケット漫画だ。その理由として、ストーリーの面白さはもちろんのこと、キャラたちが試合で繰り出す超絶プレーの魅力もあるだろう。
本作を読み返すと、作中で描かれているプレーは、今のバスケ基準で見返しても凄いものばかりであることに気付く。そこで今回は、現代の基準に照らし合わせてみて、『SLAM DUNK』がいかに凄かったかを再確認していきたい。
■流れるように決めた藤真の「ワンモーションシュート」
まずは、インターハイ神奈川県予選、翔陽の主将兼監督・藤真健司が、湘北・宮城リョータと1対1で見せた「シュート」だ。
描かれたのはコミックス11巻。それまで藤真は監督としてベンチで指揮していたが、思わぬ接戦のため、満を持して途中出場することとなる。
コートに入った藤真は早々にゴールを決める。その直後、花形らに阻まれ外れた赤木のシュートのリバウンドを制した桜木だったが、一瞬の隙をついて藤真はボールをスティールし、速攻をしかける。
これに対して、スピードに定評のある宮城が追いつく。身長168cmの宮城だが、藤真も178cmとそれほど高くない。止める気満々の宮城の心を見透かしたように藤真は急停止しジャンプシュート、難なく得点を決めた。
一見、何の変哲もないジャンプシュートに見えるが、分解するとその凄さが分かる。筆者的には、外見こそ似ていないがNBA史上最高選手の一人であるジェームズ・ハーデン選手のプレーに通ずるものがあると思う。
まず、スピードの緩急でディフェンスを剥がし、さらにジャンプの最高点に到達する前にシュートしている。ジャンプの頂点でボールをリリースするバスケ選手が多数を占める中、ジャンプしながらボールをリリースするイメージの「ワンモーションシュート」は、近年のトレンドともいえるスタイル。特に、ワンモーションでスリーポイント(3P)シュートを打つ選手が増えている。藤真はそれを先取りしていた、とも言えるだろう。
そして藤真は作中の主要キャラでは唯一のサウスポーだ(ちなみにハーデン選手もサウスポー)。これらすべての要素が、ブロックのタイミングを非常に取りづらいものにしていた。
さらにこのプレーの直後、藤真は後ろから突っ込んできた桜木のインテンショナルファウルを受けており、獲得したフリースローもきっちり決め、翔陽ボールで試合を再開している。
藤真は作中での活躍はこの一試合のみ、しかも途中出場であったが、このスティールから始まった一連のプレーに彼のセンスが凝縮されていた。
■驚異のシュートレンジ! 神の「ディープスリー」
作中屈指のシャープシューターである海南大附属・神宗一郎。
コミックス16巻での海南VS陵南の試合、3Pラインから遠く離れた場所から決めてみせた神の3Pシュートは圧巻だった。綺麗なフォームで放たれたシュートは見事スウィッシュ。リングやバックボードに触れない完璧なクリーンシュートである。
この神のシュートを見た仙道は「さすがに… すんなり勝たせてはくれないか…」と呟き、彼がスイッチを入れるきっかけとなった一本でもあった。
近年では、3Pラインからはるか離れた場所から放つシュートは「ディープスリー」と呼ばれ、驚異的なプレーとして存在感を高めている。
ファンの間では、神のモデルとなった選手は、連載当時NBAで大活躍していた3Pシューターのレジー・ミラー選手ではないかと推察されている。しかし現在のバスケ界でいうと、やはりステフィン・カリー選手は外せないだろう。
カリー選手は、ミラー選手をも超えるNBA歴代最高のシューターともされ、その高い成功率の3Pを武器に従来の2P重視のオフェンス理論に革命を起こした選手だとも言われている。そのカリー選手の真骨頂とも言えるシュートが、陵南戦で神も見せた「ディープスリー」なのだ。
神とカリー選手、両者とも流れるように美しく、そして精密機械のように毎回安定したフォームが、高い成功率と驚異のシュートレンジを可能にしていた。