■冷血漢の人生を変えた少女との出会い『ガラスの仮面』速水真澄
美内すずえさんの『ガラスの仮面』に登場する速水真澄も、少女漫画界におけるスーパープリンスと言えるだろう。
真澄は大手芸能事務所・大都芸能の社長であり、幼少期から英才教育を受けてきた文武両道のイケメン社長だ。これまで欲しいものは実権や財力を使い何でも手にしてきたが、13歳の少女、北島マヤに出会ったことで自分の生き方がゆらぎ始める。
まず、マヤへの想いを自覚した真澄は“いや11歳も年下の少女だぞ…!”と、なかなか自分の気持ちを認めることができない。さらにマヤに好きな人ができたと知った際には、ショックでグラスを握りつぶして手を怪我している。
また宣伝のためにマヤの母を軟禁し、結果的に死なせてしまった際には、生まれて初めて罪悪感というものを覚えた。マヤとの出会いを通してこれまで崩れることのなかった心が大きく揺さぶられ、いくつもの挫折を経験することとなったのである。
そもそも真澄は高いプライドが邪魔をして、なかなかマヤに気持ちを伝えられない。それまで何事もクールにこなしていた真澄がマヤを目の前にすると、“冷血漢と呼ばれたこの俺が…”と何度もうろたえる。そんな姿は可愛らしくもあるが、なんとももどかしい。
自分の思い通りにいかない恋愛を目の前にしてうろたえるシーンは、読者にとって胸キュンでもある。それが人気作品である理由にもなっているのだろう。
今回紹介したキャラクターは、いずれも恋愛や結婚での挫折がなければパーフェクトな生活を送っていたかもしれない。しかし漫画に限らず、あまりにも順風満帆で失敗しない人生はつまらない。どうがんばっても自分の思い通りにいかない挫折を味わうことによって、人は成長するのだ。
完璧なプリンスが恋愛を目の前にしてうろたえる姿は、私たちにそんな教訓を教えてくれている気がする。