■アニメや特撮でおなじみ「中の人」

 また、アニメの声優や、特撮番組や戦隊ショーでヒーロー役を務めるスーツアクターなどを「中の人」と呼ぶことも定着したが、これはもともとは吉田戦車氏の4コマ漫画に登場した言葉だ。

 1989年から1994年にかけて『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載された吉田氏の漫画『伝染るんです。』では、主人公・かわうそ君が自分の背を高く見せるために黒覆面をした人物に肩車してもらい、その上にシャツを着るという描写がたびたびある。対面している人からは怪しさ満点のため「下の方は大丈夫ですか?」といった指摘が即座に入るが、そのたびにかわうそ君が「下の人などいない!」と怒るというシュールなオチだ。

 この「下の人などいない」が、現在でも使われている「中の人」のルーツだが、吉田氏の漫画では「中の人」というストレートなセリフもあり、たとえば雑誌『週刊ファミ通』に連載された漫画『ゴッドボンボン』で描かれている。

 アニメキャラの声優や、着ぐるみキャラクターに対してなど、すっかり定着したこの「中の人」という言葉。なお、吉田氏の妻である伊藤理佐氏によるエッセイ漫画『おかあさんの扉』では、両氏の中学生の娘がポロッと「このキャラの『中の人』がサー」とつぶやいたのを聞いた伊藤氏が「その『中の人』ってさ 昔お父さんが作ったコトバだって知ってる?」と自慢し、感慨に耽るというエピソードがある。当時4コマギャグ漫画から生まれたシュールなネタが、時代を越えて実用的に変化したものと言えそうだ。

 以上、3つの言葉を振り返ったが、いずれも文字のイメージだけでも何となく意味が分かるものばかり。未来にまで残る言葉を思いつく、作者のワードセンスには脱帽せざるをえない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3