『ゴジラ』シリーズに『怪獣8号』の大ヒットも…なぜ日本人は「怪獣」にひかれるのかの画像
『怪獣8号』キービジュアル(C)防衛隊第3部隊 (C)松本直也/集英社

 今春アニメ放送開始となった松本直也氏の『怪獣8号』が人気だ。怪獣大国・日本を舞台に、夢を追い続ける32歳の冴えない“おじさん”日比野カフカを描いた本作は、2020年の連載開始以降『少年ジャンプ+』(集英社)の看板作品となっている。

 とはいえ連載前は、“怪獣退治”という古き良き少年漫画のテーマと冴えないおじさん主人公が、若い読者層にウケるかどうかが懸念されていたという。

 それがフタを開けてみると予想外の大反響。なんだかんだ、みんな怪獣が大好きなのだ。

■日本人はとにかく怪獣好き?

 怪獣作品は今や日本のお家芸であるが、怪獣の概念そのものは、古くから人類の「集合的無意識」(人類に共通して備わっている無意識)として存在していたように思う。たとえば西洋文化圏のドラゴン、エジプト神話のスフィンクス、中国神話の麒麟、そして日本神話のヤマタノオロチなどがそうだ。

 そうなると当然海外でも、怪獣をテーマにした作品は多数存在する。しかし日本ほど多様なジャンルに富み、世界中でヒットするような怪獣作品を生み出す国も珍しい。なぜ日本人はこうも怪獣に惹かれ、多彩な作品を輩出し続け、それに熱狂するのだろうか。

■背景にあるのはやはり『ゴジラ』シリーズ?

「日本を代表する怪獣作品といえば?」こう尋ねられたら、ほとんどの人が『ゴジラ』シリーズを挙げるのではないか。1954年に核が生み出した大怪獣ゴジラは、瞬く間に日本を怪獣大国へと押し上げた。

 一方で『怪獣8号』では、ゴジラ、モスラ、ラドン……といったように怪獣を名付けることはなく、1号、2号……と発生順に番号で識別する。また、その強さは「フォルティチュード」という単位で計測される。まるで台風や地震のようだ。

 核兵器から着想を得て誕生したゴジラが人災なら、『怪獣8号』の怪獣はまさに自然災害そのものだ。事実、日本ほど自然災害の多い国はない。世界有数の火山大国であり、夏になれば台風も来るし、日本海側は世界一の豪雪地帯……と、さまざまな自然の厳しさが身近に存在する。

 人災であれ天災であれ、ある日突然、理不尽な災害に襲われる恐怖……それを潜在的に強く持っているからこそ、私たち日本人は「怪獣」の出現を我がことかのように感じ、より臨場感を持って受け入れることができるのではないか。

■魅力的な作品を生み出す“匠の技”

 加えて、日本の怪獣作品はクオリティが高く、存分に夢中になれる要素が詰まっている。

 現在より技術の劣る昭和の時代の作品であっても、ゴジラのゴツゴツした肌感に、モスラのもふもふ感など、造りはリアルでディテールに凝っている。またストーリーも単に“怪獣が暴れて倒される”というだけではなく、災害のメタファーとしての怪獣や、それにより日常を壊された人々の生活や心情が丁寧に描かれている。まさに“匠の技”だ。

 このあたりは『怪獣8号』もまさにそうで、スリルある展開と人間ドラマで早く続きが読みたいと思わせる反面、デザイン性や画力の高さには思わずページをめくる手を止めて眺め入ってしまう。見た目も中身も優れた怪獣作品が身近にここまであふれていれば、誰だって怪獣好きになりそうなものだ。

■抑圧しがちな国民性も怪獣好きの一因?

 先に挙げたような繊細な技術や感性は、日本が持つ国民性としてプラスに捉えられることが多い。一方で“自己主張をしない”、“周りの目を気にする”など、とかく抑圧的な特性が目立つのも事実だ。

 この日頃から積もり積もった鬱憤を解消してくれるのもまた、怪獣作品の重要な役割の一つかもしれない。忖度なく街や世界をぶち壊してくれる怪獣たちの姿に、カタルシスを得るという人も少なくないはずだ。もちろんそれは万国共通のことだろうが、普段から抑圧度合が強ければ強いほど、怪獣に惹かれる強度も上がるのではないか。

 

 このように、『ゴジラ』に代表される「怪獣」は、日本人にとってはことさら身近な存在であり、良質な怪獣作品を大量に世に送り出すだけの地力も兼ね備えているように思う。そして、そこから得られるカタルシスが、日本人の怪獣好きをさらに後押しするのではないだろうか。

 私たちの心象風景に刻まれた怪獣たち。これからも怪獣大国・日本の国民を、ますます虜にしてくれることだろう。

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