■伝説だらけ、野生味たっぷりの脚色モリモリな漫画『高橋名人物語』

 そんな高橋名人の半生を題材に描かれたのが、河村一慶さんによる漫画『ファミコンランナー 高橋名人物語』だ。小学館の漫画雑誌『月刊コロコロコミック』で1986年から1988年まで連載され、コミックス全6巻が刊行された。

 同作は、名人本人から聞いた話に脚色をふくらませたフィクション。その内容はというと、小6の夏休みに野生にかえった名人が、木々を飛び移り大量のウンコを投げることで「新しいセミ採り」をしたり、トカゲの尻尾がイカゲソよりもおいしかったから「トカゲソ」と名付けて集めていたり、北海道なのにライオンやパンダに見守られながらワニを投げ倒したりと、現実離れした野生味がたっぷり。

 成長してからも、連打で丸太をきれいに等分割り、女の子のスカートをめくってパンツに書かれたファミコン大会の予定を確認、ゴキブリが考えた汚い材料で作るハンバーグを美食家に食べさせるなどなど、とんでもない展開ばかり。

 とはいえ、1986年に発売されその後の人気シリーズとなったファミコン用アクションゲーム『高橋名人の冒険島』でも野生的なキャラとして描かれていた高橋名人。創作と真実の区別より、面白さ優先の子ども読者にとっては、漫画の中の高橋名人はもう一つの憧れの姿だったのかもしれない。

 高橋さんは30年近く在籍していたハドソンを2011年5月31日付けで退社し、現在は『コロコロチャンネル【公式】』などで活躍している。本日で65歳の誕生日を迎えたが、名人は2022年5月にYouTubeでNintendoSwitch『マリオパーティ スーパースターズ』の連射ミニゲーム「れんだでサンボ」のプレイ動画をアップし、1秒間に12連射という超技術を披露。今もその腕前は健在だ。

 1980年代に登場した新しい玩具・ファミコンに子どもたちは夢中になったが、高橋名人は「ゲームは1日1時間」と親たちの気持ちを代弁していた。現在、ソシャゲにはまってスマホを手放せない私たちにとっては、耳の痛い金言である。

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