■野生動物との出会いと別れ『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』のマーフィ

 猿といえば、『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』(1992年放送)も忘れられない。野生動物との出会いと別れを描いた点では『あらいぐまラスカル』とも共通しているが、実は密猟問題や人種差別なども絡んだ社会派作品だ。

 ケニアに住むイギリス人の少女・ジャッキーは、親を亡くしたブッシュベイビー(ショウガラゴ)の赤ん坊にマーフィと名付けて育てた。やがて本国に帰ることになったジャッキーは、マーフィを野生に帰す決意をする。

 泣けるのはやはり別れのシーン。ブッシュベイビーのいる森でマーフィを放したものの、マーフィはどうしてもジャッキーの元へ戻ってきてしまう。たまらず泣き出すジャッキーだが、それでもマーフィを思えばこそ野生に帰す選択を貫いた。

 そこにブッシュベイビーの群れが現れ、仲間たちに温かく迎えられたマーフィは、ようやくジャッキーの元を離れていく。最後に振り向くマーフィ、「さようなら、マーフィ」と涙を流すジャッキー。それぞれの決断が胸に迫る。

■引き継がれた命『七つの海のティコ』

 最後に『七つの海のティコ』(1994年放送)のエピソードを紹介して終わりたい。

 母を亡くした主人公のナナミは、海洋学者の父スコットと、親友であるシャチのティコとともに船で旅をしている。しかし物語の中盤、ティコは命を落とすことになる。

 ティコの死から立ち直れないナナミを救ったのは、ティコの子どものジュニアだった。いつもはナナミにそっけないジュニアが、やたらとあとをついて泳ぐ。
「私はティコじゃないんだから」と冷たく言い放ったナナミだが、“ジュニアは私についてくればティコに会えると思ってるんだ、本当に悲しいのは母親を亡くしたジュニアなんだ”と、気づくのだ。

 ちょうどそのとき巨大なシロナガスクジラが歌い、その歌声を聞いてやってきた年老いたシロナガスクジラが寿命を迎えて海底に沈んでいく。「命が引き継がれたんだ」とスコット。それを聞いたナナミは、ティコの命が自分やジュニアの中に引き継がれて生き続けることを悟り、その死から立ち直るのだった。

 ともに母を亡くしたナナミとジュニアの新たな絆、そこに引き継がれている命の循環。壮大なスケールのエピソードだ。

 

 大人になってこれらのエピソードを振り返ると、なぜか余計に泣けてくる。子どもの頭では、“可愛い、嬉しい、悲しい、かわいそう”程度の意識でも、もっとずっと深い部分で心を揺さぶられ、教科書では学べないことをたくさん教わっていたのだろう。

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