日本に伝わる「昔ばなし」に焦点を当て、子どもにもわかりやすくアニメ化していた『まんが日本昔ばなし』。筆者も幼少期、市原悦子さんと常田富士男さんの優しい語りに夢中になったものだ。
今日は「母の日」ということで、そんな『まんが日本昔ばなし』のなかから、偉大な母親の愛情を感じるエピソードをご紹介していこう。
■甘い水が湧き出る不思議な泉の物語『子育てのいずみ』
福井県にある霊泉寺には、かつて甘酒のような甘い水が湧き出ていたと言われている池があったという。このお寺に伝わる伝承をモチーフにしたのが、『子育てのいずみ』というエピソードだ。
本エピソードでは、母を亡くした太郎という少年と、彼のもとへやってきた新しい母親が登場する。太郎の新しい母親は、のちに生まれた太郎の弟たちと太郎を分け隔てなく接し、母親としてよく頑張っていた。
その後すぐに夫を亡くしてしまうのだが、それでも変わらず子どもたちをかわいがり、よく働き、奮闘していた母。しかし、彼女には“すぐに怒ってしまう”という悪い癖があった。
そしてある日のこと、母は太郎をひどく叱って家から追い出してしまう。すぐに我に帰るも、太郎は待てど暮らせど戻らない。彼女は仏様に毎日祈りながら、太郎の帰りを待っていた。
季節が移りかわったころ、やっと家に戻った太郎は、長い時間帰らなかったわりにはすくすくと成長していた。実は太郎が生き長らえた理由が、霊泉寺から湧き出ていた「甘い水」を飲んでいたからというものだった。
このエピソードでとくに印象的だったのが、母親の太郎に対する愛情だ。彼女は太郎の義理の母親にあたるわけだが、彼を本気で愛し、本気でぶつかっていたように思う。些細なことで怒り幼い子どもを家から追い出すなんて令和の現代では考えられない話だが、彼女は自分のおこないを心底後悔し、太郎の無事を祈っていた。
彼女のとった行動には賛否両論あるだろう。しかし母親といえど1人の人間で完璧ではないし、間違った行動をとってしまうこともある。太郎を追い出したあと、母親が彼を探し回り、長い間祈りながら帰りを待つその姿に、深い母親の愛情を感じてしまった。
■神隠しにあった息子を探して山へ…『姥清水』
福島県に伝わる『姥清水』。飯豊山地を舞台にしたこのエピソードは、行方不明になってしまった息子を探す母親が主人公だ。
この土地では、子どもが13歳になるころ、「お山参り」として山へ入るしきたりがあった。しかし、この「お山参り」の際、不幸にも息子を神隠しにあわされてしまった母親がいた。母は息子を諦めることができず、女人禁制の山に1人で入ってしまった。
やっとの思いで山頂にたどり着いた母は、そこで息子を取られてしまったことを嘆く。その声を聞き現れた姥権現が、彼女の息子はお山参りの途中で事故に遭ったことをきっかけに、“山びこの息子”になったと教えてくれた。
姥権現に言われて息子を呼ぶ母親。その耳に遠くのほうから山びことなった息子の声が届き、母親は嬉しさのあまり涙を流すのだった。
そして、母親は息子の声が聞けるこの山にとどまりたいと願う。その願いが聞き届けられたのか、朝が来るとそこには母親の形をした石があったそうだ。
飯豊山には「姥権現」として親しまれる石像がある。伝承では親子のエピソードではなく、女人禁制の山に無理に入った女性がひと休みしていたら石になってしまったと伝わっているようだが、『まんが日本昔ばなし』の美しくも切ない親子のエピソードに胸を打たれたのは筆者だけではないはずだ。母親の深い愛情が心に残るエピソードになっている。