秋本治氏による漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、1976年から2016年にかけて『週刊少年ジャンプ』で連載された作品だ。時事問題や社会的な内容を取り上げるため、同誌におけるファンタジーやバトル作品にない魅力がある。
コミックス全201巻に渡って描かれた『こち亀』のエピソードはいくつかのカテゴリに分けられるが、日常のちょっとした“疑問”を解説するエピソードに驚かされた読者は多いのではないか。それらの「豊富な知識」の数々は、まるでその後の“世界の見え方”が変わってしまうような面白さを持つものもあった。
そこで今回は『こち亀』で知って驚いた、うんちくネタの数々を振り返りたい。
■気にしたことあった?押収物・証拠物の並べ方
最初に紹介するのは、ニュース番組でよく見る押収品・証拠物の並べ方。警察によって窃盗品など大量の押収品が並べられた様子が、写真や動画で紹介されるのはよく見かける光景だ。
この並べ方の法則について、コミックス195巻「本庁配置係の巻」で明かされた。これは両さんが本庁の広報課配置係に出向が決まり、押収品の並べ方を教わるというストーリー。無造作に並べられているのではなく、実は分かりやすいように計算し尽くされて配置されているということが分かるのだ。
基本的に、レアなものや目立つものは中央に置くのが鉄則。テレビ画面に映し出された際、中央にあることで視聴者の目を引くという。
さらに、ブランド品のコピーはそのまま置いてはいけない。精巧にできているものが多いため、そのまま置くとデパートの商品売場のようになってしまう。そこで、“コピー品らしさ”を演出するために、あえて斜めに並べたりヨレさせたりするというネタも盛り込まれていた。
ニュースを見ていると、たしかに証拠物が整頓して並べられていることがあり、その際にはネット上で「こち亀で見た並べ方だ」と話題になることも多い。『こち亀』からその後の“世界の見え方”が変わったうんちくのひとつだろう。
■創刊号が安いのはなぜ? 分冊本の仕組み
続いて紹介するのは、分冊本・分冊百科の仕組み。これはある特定のテーマのものを定期的に刊行し、それをすべてそろえることで完成する出版物の一形態だ。「週刊○○」などの本で、毎号パーツが付いてきて、全巻買いそろえることで大掛かりなコレクションアイテムが完成するというものもこの形式の出版物で、完成するまでに毎週少しずつ知識が深まっていく楽しみ方もできる。
コミックス164巻「分冊本大ブームの巻」では、この分冊の仕組みが説明されている。これは両さんがテレビで流れた『週刊カウンタック』のCMで分冊に興味を持ち、出版社に企画を持ち込んで『週刊すしネタ』や『週刊二宮金次郎像』『週刊秋本麗子』などヒットを飛ばすというエピソード。序盤で、両さんが分冊システムについて中川圭一から話を聞かされたのがきっかけだ。
そもそも分冊で気になるところは「最後まで買い続けられるか」という点。両さんも「途中で買い逃したり飽きたりして最終号まで買わないかも知れんぞ」と疑問を投げかけるが、中川は「そこも計算して販売しています」と解説。創刊号は価格を抑える代わりに発行部数を多くし、2号目以降は通常価格に戻す代わりに発行部数を少なくして全冊トータルで採算があうよう計算していると裏側を明かしている。
その他にも、「城」や「歴史」といった渋めのジャンルが多い点についても、「購買層にピタリ」と解説。「創刊号290円!」といったCMの見方が変わる、分冊本を企画する出版業界の企業努力が分かるエピソードだ。